人の数だけ、違った歩き方がある。<br>人の数だけ、歩く理由がある。<br>WALKS – 森山未來・番外編/レポート –

WALKS EXTRA EDITON

DANCE BOX REPORT #01

People 2022.01.19


DANCE BOX REPORT #01

人の数だけ、違った歩き方がある。
人の数だけ、歩く理由がある。
WALKS -森山未來・番外編/レポート-

さまざまフィールドを超え、「歩く」ことから出逢う感覚を探る本連載。番外編では、土地のリサーチや考察から身体表現を生み出す森山未來さんが、現在振付家として携わるNPO法人DANCE BOXとの取り組み「国内ダンス留学@神戸7期」プログラムを取材。連載第1回目、ともに歩き、取材させていただいたアシックス創業の地でもある兵庫県神戸市・長田区を舞台に、参加する6名のダンサーがフィールドワークを通じ作品制作に挑む。実際に「歩く」ことを通じ、何を習得し、どのように身体の表現に落とし込まれていくのか。稽古現場に足を運んだ。

第1回目の記事はこちら:
人の数だけ、違った歩き方がある。人の数だけ、歩く理由がある。
WALKS -森山未來編-

文化庁の「次代の文化を創造する新進芸術家育成事業」として実施される「国内ダンス留学@神戸7期」に参加するのは、プロのダンサー・振付家を志し、日本全国から集まった全6名。2022年1月21日、22日の本公演に向け、数ヵ月にわたりフィールドワーク、リサーチを重ねてきた。舞台は今日の地名が定着する以前、古代から「長田」という地名で扱われていたとされる場所として、現在の長田区、須磨区、兵庫区にあたる8つのエリア、「苅藻川源流」「須磨寺(現在は須磨区)」「天神山」「会下山(現在は兵庫区)」「高取山」「長田神社」「和田岬(現在は兵庫区)」「駒ヶ林」で構成され、一人ひとりがリサーチをもとに振り付けを考える。取材日当日は「会下山」を担当する楠田東輝さん、「和田岬」を担当する小松菜々子さんの稽古が行われていた。

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8つの土地は、どのようなことを軸に決められたのでしょうか。

森山:「長田」という地名について調べると、文献だけ見てもかなり昔から名前が存在していて、人が住んできた歴史も長いことがわかります。例えば神戸市兵庫区と長田区との境目に位置する会下山の辺りにある遺跡からは、旧石器時代のナイフが出土している。そこには必ず理由があるはずです。人が生きるために水というものが不可欠で、水を生んでいるのは山。時に山には獣が出て、川は氾濫し海は洪水も起きる。長田は海も近く山もありますから、すべてのものから恵を受けて畏れ敬いながら生きてきたのではないかと思います。そういった土地の原点、大地の存在にフォーカスを当て、各々が文献を通して歴史を調べながら、実際に山を登ったり川の上流を歩いて源流を探したりして、相談しながら8つの場所を決めて行きました。

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「会下山」を担当されている楠田東輝さん、「和田岬」を担当する小松菜々子さんは、具体的にはどのようにその土地に辿り着いたのでしょうか。

楠田:僕が担当することになった「会下山」には、会下山遺跡という旧石器時代の遺跡があり、神戸発祥の地とも言われている山です。実はリサーチでは1ヵ月ほど長田区を歩き回って、なかなかこれというところが見つからず、場所の選定には苦戦しました。そんな中で会下山に足を運んだとき、湊川隧道というトンネルがスパンと開けていて。湊川隧道は明治時代に湊川で大水害が起こり、その氾濫を抑えるために治水工事で山を貫いた、日本で一番最初にできた水のトンネルとも言われているのですが、結果的に新湊川という川が生まれ、新湊川は長田神社の先、苅藻川と繋がっている。そこから長田が見渡せました。さらに長田神社とも縁があると知り、あ、ここだと。人工的に作られた場所ではあるけれど、長田の土地と根源的に繋がっている場所だと自分の中で納得がいき、この場所を選びました。

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小松:はじめは文献を読んで、気になる場所を見つけたらGoogleマップ上にピンを立て、まずは足を運んでみるというところから始めました。正直なところ、フィールドワークを通して、どうやって土地から表現を身体に起こしていくんだろうと半信半疑だったのですが、「和田岬」を訪れたときに、あ、わかるなと。大阪湾・神戸港に面した「和田岬」は、今では工場地帯になっているので立ち入れず、訪れたのは明治時代に岬から移転された和田神社。そこでは長い年月、毎日太陽が昇るのと一緒に目を覚まして、毎日、同じことを丁寧に繰り返している。ただ丁寧に、繰り返されていく行いが何年間も受け継がれてきた場所なんだと感じた時、あ、踊れるなと。その土地なのか、歴史なのか空気なのか、その場所を作っている人たちの生む雰囲気なのか。そういったものに自分の身体が動かされて、ダンスができる感覚を憶えて、自分でも驚きました。

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実際にはどのような形で街を歩き回るフィールドワークから、身体の動き、パフォーマンスに繋げられていったのでしょうか。その過程について教えてください。

森山:いわゆるアカデミックな方法で歴史的観点や地質学的観点からその場所を知るということ。そして歩くということにも繋がりますが、自分がその場所を訪れて体感したこと。どちらもかけがえのないもので、今回は各々フィールドワークに行ってもらいつつ、僕も一緒に足を運び、その場所ごとマンツーマンでさらに身体を立ち上げるという形を取りました。まずその地でそれぞれのダンサーが何を感じて、(身体表現として)何が出てくるのかということが一番大事。事前に調べた土地に対する知識や情報の蓄積を踏まえて、実際にその場所で立ち上がった身体。立ち上がった身体表現を受けてのディスカッションを続け、さらに言葉や身体を折り混ぜながらセッションを重ねて振りを作っていきました。例えば「会下山」をリサーチしてもらったハルキ(楠田さん)の動きも、会下山に実際に赴いて生まれたもの。そこからさらに現在の兵庫区と長田区、湊川が新湊川として二分される狭間にあるアンビバレンスな状態を、身体においては手のひらを表、裏という所作で現してみようとシンボライズしていく。見ている人の内部にイメージを立ち上げ、それぞれの土地を想起させるために、土地で出てきた身体と接続する象徴的な身体を見つけていきました。

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楠田:ちょうど僕が踊った場所が会下山にあるトンネルの真上だったのですが、とても空虚な感じ、空洞でガランとしている印象があって。元はひとつの山だったけれど、人為的な理由によって呆気なく貫かれてしまったという史実に、空虚な感覚が重なりました。山の気持ちになるわけではないですが、人の手によって急にパンっと貫かれ、まさか貫かれるとは、と不意を突かれた感覚。人為的な要素がとても大きく、外部の何者かによる理不尽とも言える要因に左右された土地である、ということが身体(の動き、表現)として現れました。用意していたことと、その場所に足を運んで感じたことが重なって、身体が偶然立ち上がったんだと思います。自分で事前に調べていた歴史的な背景も踏まえて、その場所に立って。偶然というか、必然でしたね。腑に落ちる感覚がありました。

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小松:森山さんから教えていただいたんですが、「岬(みさき)」という言葉の中には「さく」という言葉が含まれています。日本文化では古くから「裂け目(さけめ)」というものに対してリスペクトがあり、美しくも畏れられる存在だったそうです。岬は「裂け目」であると同時に海と土地を分ける「境目(さかいめ)」でもある。実際に岬を目の前にした時、他のフィールドワークをしていた時とは全く違う感覚を憶えました。例えば森の中にいると、自分が自然に返っていくような、馴染んでいけるような感覚があるんですが、岬は風がすごく強くて、波が強い。端に立った時の、海と自分が絶対に相容れない、一歩先を行ったら自分には絶対に棲めない世界があるという感覚。ある意味、自分自身と世界の境界線を強く感じました。須磨の方の海とは全く違う。バーンと波が打ち付けるような岬だったので、ある意味ひとりぼっちだという感覚。だからこそ畏れも感じたし、面白さも感じましたね。そういったいろいろなことを森山さんと話しながら、土地自体にも影響を受けながら身体を立ち上げて行きました。

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フィールドワークを経て「土地から身体に立ち上げる」こと。そして見ている人の内に「身体から土地を立ち上げる」ことは、舞台上でどのように繋がっていくのでしょうか?

森山:例えば手のひらを合わせたり、頭を下げる動き。世界中の儀式などではそういった簡略化・形式化されている行為の裏側にたくさんの情報があるものと想定し、信じて、その行為をします。そうして誰もが見たことのある行為から認識上の接点を発見し、イメージを飛躍させるものとしての身体を信じながら、どうやって人の想像を連れていけるかということを考えます。今回の舞台ではそれぞれの土地で出てきた身体と接続できそうな、象徴になりそうな身体を見つけて、形式として所作を配置しています。それも一回だと一過性のものとして情報が終わってしまいますが、繰り返されることによって存在や行為の意味を人は想像すると思うんです。歩くこともまた、右足と左足を交互に動かす行為を繰り返していくことによって意味をもつと思うのですが、繰り返すことが強調になり、そこに物語をみる、イメージを膨らませることに繋がります。もちろん10人いれば10人、受け取り方は違うんですけれど。「会下山」を例にとると、手のひらを表に向けて先に伸ばしているということは何か求めている。手のひらを裏に返して背負うような動きは何かを受け止めている。そうして鑑賞者と何かしらの接点を見出すところから始まり、身体からイメージをさらに飛躍させていく。その時その場所で自分の身体に起こった現象や感情。それらが結果として「その土地の記憶を呼び覚すための身体」として舞台で浮かび上がる。こういった一連のプロセスを通して、結果的にその「場所」というものを信じられるかどうか。そういうことを試したいんだろうなと思います。

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文献を通じた歴史的・物理的な事実から街を歩き回った時間。そして実際にフィールドワークを通じ各々が歩くことで見つけた、土地から身体が立ち上がる感覚。稽古場では、森山未來さんと楠田さん、小松さんがその土地で出逢った身体を思い出すように目を瞑り、各自がレコーディングしてきたという土地の環境音に耳を傾ける姿勢が、印象に残った。土地から立ち上がった身体の動きが、舞台という全く別の空間で表現される時、その足取りや纏う空気、動きに、私たち観客は何を見るのか。次回は「国内ダンス留学@神戸7期」に参加する、秋田乃梨子さん、石山樹野さん、川崎萌々子さん、楠田東輝さん、久保田亜樹子さん、小松菜々子さんの公演に続きます。

Newcomer/Showcase#3 森山未來×国内ダンス留学7期生 
『Re: Incarnation in Nagata』

文化庁の「次代の文化を創造する新進芸術家育成事業」として、プロのダンサー・振付家を志す者を対象とした8ヵ月間の育成プログラムとしてNPO法人DANCE BOXが主催する「国内ダンス留学@神戸7期」。神戸・新長田の劇場を拠点に、プログラムのひとつとして、森山氏が参加者(7期生)とともに作品を手がける。長田の街のフィールドワークから始まり、約半年間の制作期間を経てこの土地がもつ力や歴史がダンサーの身体で読み直され、長田の縮図となった大正筋商店街を舞台に現れます。

<国内ダンス留学@神戸7期
Newcomer/Showcase#3 森山未來振付作品>

日程:2022年1月21日(金)、22日(土)
時間:18:30-20:30(予定)
会場:大正筋商店街、アスタくにづか1-6番館、ArtTheater dB KOBE
*1月22日(土)・21日(金)両日ともに完売。受付終了となっています。
詳細:https://preview.studio.site/live/EjOQpb08WJ/events-details/newcomer3

振付・演出・構成:森山未來
共同振付・出演:秋田乃梨子、石山樹野、川崎萌々子、楠田東輝、久保亜樹子、小松菜々子

音楽:nouseskou
衣装:sulvam、ASICS WALKING
衣装協力:宮崎雅也(Mukta)、川上瞳
主催 : 文化庁、NPO法人 DANCE BOX
企画・制作:NPO法人 DANCE BOX
後援:(公財)神戸市民文化振興財団
協力:大正筋商店街、株式会社くにづか、新長田まちづくり株式会社、sulvam、Mukta、ASICS WALKING、amana inc.、WAGOMU Climbing Gym、丸山プロジェクト 上野天陽、長田神社、神戸水天宮、神戸アーカイブ写真館、駒ヶ林浦漁会、長田区

文化庁委託事業「令和3年度次代の文化を創造する新進芸術家育成事業」国内ダンス留学@神戸7期⁺