想いを伝えて、防災がある日常をつくる<br>泉勇作さん 疋田裕二さん(KOKUA) 想いを伝えて、防災がある日常をつくる<br>泉勇作さん 疋田裕二さん(KOKUA)
日常時と非常時のフェーズをフリーに
WHAT’S PHASE FREE?
#04 泉勇作さん 疋田裕二さん(KOKUA)インタビュー

#Story 2024.02.29

想いを伝えて、防災がある日常をつくる
泉勇作さん 疋田裕二さん(KOKUA)

フェーズフリーは、「日常時」と「非常時」のフェーズをフリーにして生活の質を高めようとする、防災に関わる新しい考え方です。私たちがいつも使っているモノやサービスを、もしものときにも役立てる。「防災と社会のハブに」をコンセプトに掲げるKOKUAは、災害はいつ起きるのかわからないからこそ、日常から備える意識が大切であることを伝えています。防災用品のカタログギフト「LIFEGIFT」やパーソナル防災サービス「#pasobo」を通じて防災のきっかけを広めているCEOの泉勇作さんとCOOの疋田裕二さんに、防災がある日常づくりについて聞きました。

無理なく自然に、日常と防災をつなげる

――まずはKOKUAを立ち上げた理由を教えてください。

泉:僕は兵庫県神戸市生まれで、2歳半くらいで阪神・淡路大震災の被災を経験しました。実家が東灘区という被害が酷かったエリアだったんですね。大学入学がもう目の前という時期に、今度は東日本大震災が発生して、僕も疋田も京都の大学なんですけど、入学式は自粛ムードという感じがありました。大学生になったら遊び倒してやろうと思っていたものの、せっかく時間もあるし、自分のルーツに地震も関わっているということで、NPOの災害救援活動に参加しようと思ったんですね。それからさまざまな災害救援活動を続けていくなかで、自分の力でも貢献したいという気持ちから疋田を誘って、KOKUAという防災の会社を立ち上げました。

疋田:僕が覚えているのは、高校の卒業式が終わった直後に東日本大震災が起きて、毎日のようにテレビで被災地の映像が流れるようになったんですよね。僕自身、もっと被災地に対してやれることがあるんじゃないかと考えるきっかけになりましたし、大学に進学してからNPOで被災地を支援している方々と出会ったことで、被災地の支援に参加するようになったんですね。被災した家の家財の運び出し、仮設住宅の準備とかをお手伝いしていくなかで、被災者の方々と直接話す機会に恵まれて。みなさんは明るく接してくれるものの大きな傷を抱えていました。「なぜ自分が被災したのか」「まさか自分が被災するなんて」という声と同じくらいに、「何か対策しておくべきだった」「何か備えていれば、いまの生活が少し変わっていたかもしれない」といった声もお聞きしたことで、将来は防災活動をしていきたいと思いました。

――さまざまな防災活動があるなかで、KOKUAらしい防災とはどんなものですか?

泉:考え方としては「無理なく自然に」を大事にしていて。生活者や法人にとって防災はコストと思われがちなんです。いつ起こるかわからないものにお金、時間、労力を費やすことをコストととらえるなかで、「絶対に防災の準備をしましょう」と伝え方を誤ると、逆に敬遠されたり、伝わらなくなってしまう。むしろ、ポジティブに取り組みたいと思えるようなサービスとブランドの設計を意識しています。

疋田:人の意識を変えることはすごく難しいですよね。ギフトを送るとき、ちょっとした不安があって調べものをしているときだったり、そういった日常生活の中の動線をうまく防災につなげて、備えのある状態をつくり出すことを大切にしています。

贈りもので防災の思いを伝えあう

――KOKUAならではの防災の取り組みとして「LIFEGIFT」を販売していますよね。

泉:「LIFEGIFT」は防災カタログギフトですけど、防災グッズを贈りものとして成立させるのは難しくて、お祝いのシーンに水を差しかねないんですね。「LIFEGIFT」をつくる上で重要視したのは、このカタログギフトは誰のためのものであり、何のためのものなのかを突き詰めることです。僕らとしては防災を広げるためのものだけど、ユーザーとしては、大切な人に気持ちを伝えられるベストな贈りものであるべきだと考えました。防災感を前面に出すことは僕らのエゴでしかないですし、「防災イコールあなたのことが大事」という気持ちを届けつつ、ギフトとして成り立つ素敵なものにしたかった。これをぱっと見ても、実は防災カタログギフトだと思う人はほとんどいませんよね。

疋田:ギフトって、渡す人と受け取る人が贈りものを通じて何か思いを伝えあうものだと思っていて。防災グッズをプレゼントする行為に「あなたの無事が、いちばん大事」というメッセージを込めるというコンセプトに落ち着いたことで、防災グッズをプレゼントするという仕組みをつくることができました。

――「LIFEGIFT」の中には生活空間に調和した防災グッズだけが集められていますね。

疋田:防災バッグを例にすると、銀色の生地に「非常用」と書かれたナップサックをイメージする人が多いんですけど、いまの防災ってそういうものばかりじゃないんですよ。お洒落で生活空間に合った防災グッズがたくさんあるので、そういったデザイン的に優れた防災にも使えるものをピックアップしています。でも、すべての商品が普段使っているものというわけではなくて。たとえば、消火器はあの赤いデザインをイメージする人が多いですが、自宅のお洒落なキッチンにあれを置く気持ちにはならないという人も多い。とはいえ、日常的に使わないけど消火器があること自体は安全なので、インテリアにもなるモノトーン調にデザインされたタイプを選定しています。

泉:これなんかは笛なんですよね。アメリカでは人命救助のためにデザインされたストームホイッスルというプロダクトがあって、それに近い商品なんです。災害ではエレベーターの中やガレキの下に閉じ込められたりすることがありますけど、救援・救助隊に大声で自分の居場所を知らせるのは、ものすごく体力低下を招くんですね。これはバッグに入れておけますし、アクセサリーとして首からぶら下げたり、カバンのチャームにすることもできます。機能性としても、少ない肺活量で人の耳に届きやすい音域体の音を出すことができるんです。

――「LIFEGIFT」の購入者には何か特徴はありますか?

疋田:結婚して子どもが生まれたり、新しく家を建てたりという生活環境が変わるタイミングが訪れた人たちが多いです。そういったときに「自分たちの防災はどうなっているんだろう」「生まれてきた赤ちゃんを守るために何が必要なんだろう」ということを考えて、「LIFEGIFT」をご活用いただくことが多いですね。

パーソナル化で一人ひとりに合った防災を

――2023年にはパーソナル防災サービス「#pasobo」がスタートしています。サービスの内容について教えてください。

泉:「LIFEGIFT」を贈った方、受け取った方から「あとは何を揃えたらいいですか?」といったお問い合わせが増えてきて、その度に答えようとすることが、実はすごく難易度が高いということに気づいてしまったんです。「何を揃えたらいいですか?」と聞かれても、防災グッズはその方が住んでいる場所、一緒に住んでいる人、家族を含めたアレルギーの有無、嫌いな食べものといった条件に依存するので、僕らからこれと断言できるものは正直なくて。予算が安かったりすると、選択肢の幅も狭くなってしまいます。さらに、自分の生活エリアのリスクを考えて、ハザードマップの確認とかを一般の生活者がやろうとしても、相当ハードルが高かったりする。そこで防災に取り組みたい人の後押しになるように、ITの力を使って防災の準備を短縮化、簡略化、効率化する目的から「#pasobo」を開発しました。

――個人に合った防災をどうやって導き出しているんですか?

疋田:防災を考えるために必要な質問の内容と種類は、僕らの知見だけでは限界があるということで、二人の防災専門家をパートナーとして迎えて考案しました。回答内容によってアナウンスや提案する防災グッズの種類を変えようと細かく決めています。防災はモノを買えば解決しない部分が多くて。耐震化されていない古い家に住んでいたら、何かを買って済む話ではないですし、その場合は災害リスクや耐震補強するための防災対策などをアナウンスしています。また、赤ちゃんがいる家庭ではオムツやミルクの備蓄が必須ですけど、やはり使い慣れたものを多めに用意していただくのが一番いいんです。そういった情報をWebサイト内にまとめて、商品と一緒に乳児の方がいる家庭向けの冊子なども同梱させていただいています。

――「#pasobo」は新しい防災情報が蓄積されるほどアップデートが必要だと思いますが、将来的にどんな構想を描いていますか?

泉:自治体をはじめ、世の中に散らばっている防災情報を僕らが集約・整理して、アウトプットしているんですが、ユーザーのみなさんに使いたいと言っていただけるサービスにしていきたいと考えています。以前はレコメンドされる防災グッズについても、子どもとペットと暮らしている家族5人の場合では、判定される防災グッズの合計金額がとても購入できない価格帯になってしまっていたんですよ。「防災診断をやってみよう」と気軽に質問に答えていって、最後に20万円なんて金額が表示されたら引いちゃいますよね(苦笑)。いまは改良して、松竹梅のグレード別に防災グッズを表示しています。要らないものは外すこともできますし、乳児にはこういったものが必要ですよとか、いろいろな情報とセットでパーソナライズできるようにしていて。

疋田:目が見えない人、耳が聞こえない人、足が悪い人はどうしたらいいのか、といった細かいニーズに特化できていないので、あらゆる人が自分の防災を考えられるプラットフォームになれるように対応していきたいですね。将来的には行政と連携して、同居しているご年配、お一人で住んでいるご年配、介護が必要な方々に対して、「#pasobo」を使うことでその人に合った個別避難計画を作成できるようにしていきたいです。

防災のきっかけを、一人でも多くに

――お二人が履いている「Runwalk」はアシックスがスポーツ分野で培ってきた知見やテクノロジーに基づいて開発されたビジネスシューズです。快適な歩行をサポートするという点からフェーズフリー認証商品として登録されています。日常と万が一のときにも使えるという意味で、「Runwalk」と「LIFEGIFT」には親和性を感じるんですね。

泉:まさにそうだと思います。実際に「Runwalk」を履いてみて、めちゃくちゃ歩きやすくて驚きました。僕が一番不安だったのは、革靴を履くと結構な頻度で靴ずれを起こすんですけど、まったくなくて。日常で革靴を履かなきゃいけない方々はたくさんいますし、自宅までは電車で30,40分の距離なのに、被災して徒歩3時間の帰宅困難者になってしまったとしても、「Runwalk」が災害時の帰宅をサポートしてくれるはずです。

疋田:僕はキャンプが大好きなので、普段履いている登山靴にはゴアテックスファブリクスが搭載されているんですね。でも、ゴアテックスファブリクスが使われた革靴があることは知らなかったです。釘やトゲなどの踏み抜きを防止できる安全靴のほうが、災害対策としては圧倒的に優れているかもしれません。でも、それは日常的には使いづらいですよね。その点、「Runwalk」は日常生活をベースに使うことができて防災の機能も取り入れられているので、現代のビジネスシーンにフィットしていると感じます。

――最後に、KOKUAが思い描いている防災活動のビジョンについて聞かせてください。

泉:やはり「LIFEGIFT」と「#pasobo」を通じて、防災のきっかけを一人でも多くに届けていくということを大事にしていきたいと思っています。それに向けて、いろいろなパートナーを通じて、僕らの活動を広げることに挑戦していきたいと考えていて。「LIFEGIFT」は売上の約7割が法人のお客様なんですね。法人の従業員や取引先のお客様にお渡しするギフトとしてご活用いただくことで、法人として従業員やお客様の家族も含めて大切に思っているという思いを伝えることができますし、防災力を向上させるきっかけにもなる。大きい会社だと、一度に5000部以上をまとめて買っていただくことがありますし、能登半島地震をきっかけに防災意識が高まった会社からも、「LIFEGIFT」を配りたいという相談がありました。

僕らとして、防災のきっかけをよりスピーディに届けるために、パートナーとの協業が欠かせないんです。「#pasobo」では今後、さまざまな企業との連携を予定していて、すでに展開されているアプリケーションやオンラインストアの中に「#pasobo」の機能が実装されていく予定です。

疋田:社名に関わるんですが、KOKUAはハワイの言葉で「協力する、協調する」といった意味があるんですよ。僕らだけでリーチできる層は限られていますし、防災とかけ離れた活動をしている企業と組むことによって、より新しいユーザーに防災が広まっていくので、コラボレーションを増やしていきたいです。

泉:災害は日本だけの話ではなく世界中で起こっていることなんですよね。日本は防災の象徴的な国として「TSUNAMI」という言葉が世界共通になりました。日本が積み上げてきた防災の知見を海外に展開していく。僕らなりのやり方で防災のグローバル展開も進めていきます。

PROFILE

泉勇作
KOKUA 代表取締役 CEO
幼少期に神戸市にて阪神・淡路大震災で被災。大学の入学式直前に発生した東日本大震災をきっかけに、NPOで災害ボランティアを始める。2019年に一般社団法人防災ガールのアクセラレータープログラムに参画し、防災事業の立ち上げに向けて取り組む。一人の力ではなく協力し合うことで防災を解決することを信念に、協力するという意味がある「KOKUA」という名前で創業。事業企画や全体の意思決定を担う。

PROFILE

疋田裕二
KOKUA 代表取締役 COO
学生時代に発生した東日本大震災をきっかけにNPOに参画し、災害救援、復興支援、事業企画など経験。その後、新卒でIT企業に入社。ITエンジニアやプロダクトマネージャーとして、社会インフラ向けのシステム構築やAIサービスの開発に従事。NPO時代から一緒に災害救援や防災の活動を続けてきた泉と2020年にKOKUAを創業。プロダクトやサービス全般を職掌する。
Photo:Sonoko Senuma
Edit+Text : Shota Kato(OVER THE MOUNTAIN)