たかが50km、されど50km。<br>歩くからこそ見える景色が、きっとある
瀬戸内海の淡路島で50kmのウォーキングイベント開催
XTREME WALK EXTRA in AWAJISHIMA

#Story 2024.07.10

たかが50km、されど50km。
歩くからこそ見える景色が、きっとある

去る6月1日、瀬戸内海に浮かぶ淡路島で開催された「エクストリームウォークEXTRA in淡路島」。あらかじめ設定された島内の50kmのコースを、制限時間の13時間内に完歩するこのウォーキングイベントに現地取材。果たして971人の参加者中、一体どれぐらいの人が完歩できたのでしょうか?

淡路島で開催されたエクストリームウォーク

兵庫県に属する淡路島は、瀬戸内海の島々で最大面積を誇る風光明媚な島として、そしてたまねぎやハモといった名産品の数々でも知られています。そんな淡路島の北部から中部を舞台に開催されたのが「エクストリームウォークEXTRA in淡路島」です。

ルールは至ってシンプル。13時間という制限時間内に指定された50kmのコースを歩くだけ。マラソンの世界では42.195kmという数字が知られていますが、この大会はそれ以上の距離をウォーキングのみで達成しなければいけないのです。

早朝6時、受付兼スタート場所となった「県立淡路島公園」にはたくさんの人が集まっていました。参加者数はなんと971人。やや霧が立ち込めていた会場でしたが、スタート時刻が近付くにつれ晴れ間が広がっていきます。エクストリームウォークはレースではなくあくまでFUNイベントなので、レース会場にありがちなピリピリとした雰囲気は一切なし。参加者同士で写真撮影をしたり、出展ブースの担当者の説明を熱心に聞き入ったりと、終始穏やかな雰囲気が流れていました。

「完歩するためにはいくつかコツがあるんです」

そう話してくれたのは以前SANPO TALKにも登場し、エクストリームウォークの100kmコースを完歩した経験をもつ樋口慎也さん。(通称:エクストリーム樋口)

「あまり遅すぎるとダレてしまうので、普段より少し速めに歩くのがおすすめです。あとはこまめに休憩をとるのと、その際に必ず靴下を脱いで足の状態をチェックすることですね」

長距離ウォーキングの大敵ともいえるのが、足にマメができることによる痛みです。マメは水分と摩擦熱によってできるので、休憩するたびに足を開放して冷ますのが重要なのだとか。

「ほんのわずかな痛みがある場合でも、絆創膏を貼って事前に処置するんです。つまり、早期発見、早期対策ということですね。あと長距離を歩くと下半身の疲れや痛みに気を取られがちですが、たまに上半身も肩を回すなどしてほぐしましょう。」

瀬戸内海を眺めながら歩を進める

開始時刻の6時30分がやってきました。混雑を防ぐため、参加者は4つのグループに分けられ時間差でスタートゲートをくぐっていきます。参加者の多くにとって未知の領域であろう50kmの長距離ウォーキングですが、果たしてどれぐらいの人が完歩できるのでしょうか。

参加者たちはスタート地点となる「県立淡路島公園」から森を抜けて、海岸方面へと向かいます。森の中は木漏れ日がさし、そよそよと涼しい風が流れています。下り基調なこともあって足取りも軽やか。

歩き続けると少しずつですが景色がひらけて、やがて瀬戸内海が見えてきました。目の前にそびえたつのは淡路島の景勝地のひとつ「絵島」です。長年の風雨によって形作られたダイナミックな形状に、思わず目を奪われます。ゆっくりと眺めたいところですが…第一チェックポイントとなる「防災公園」は20km以上先。序盤は元気なうちになるべく距離を稼ぎたいので、後ろ髪をひかれながらも目的地へと歩を進めます。

ここからは海岸沿いの国道をひたすら歩きます。チェックポイントまではかなりあるので、各々がコンビニなどで休憩をとりつつ、それぞれのペースでウォーキングを継続。

「今日は何のイベント? 気を付けてね~」
「どこまで歩くの? 水分補給忘れないようにね」

こんなにも大勢で歩くイベントは地元の方にとっても珍しいようで、声をかけてくださる方が何人もいらっしゃいました。こうした心温まるやりとりも、ウォーキングイベントならではなのかもしれません。

休憩したあとはコースの最難関へ

歩き続けること数時間、ようやくひとつめのチェックポイントが見えてきました。

ここではハモのフライやたまねぎスープといった、地元の名産品が振る舞われました。ハモのフライは、なんとその場で揚げたて。地元の方のおもてなしとローカルフードに舌鼓を打ちつつも、ここまででようやく半分。のんびり休憩したい気持ちをぐっとこらえて再スタートです。

ここからはいよいよ後半戦。引き続き海沿いの国道を歩き続けます。この日の最高予想気温は26度。太陽からの照り付けと地面からの照り返しが、参加者の体力をじわりじわりと奪っていきます。

淡路市と洲本市の市境を越え、岩戸川を渡り、コースどおりに右折すると瀬戸内海とはしばしの別れ。今回のルートにおける最難関であろう坂道がやってきました。ここまでの25kmでそれなりに体力を奪われているため、斜度がきつい個所になると歩みを止めてしまう人もいたほど。何よりの救いは、森の木々が参加者を容赦なく照らす太陽を遮ってくれたことでした。

近いようで遠いゴール

参加者にとって最難関だった坂道もようやく終わりが近付き、第2チェックポイントの「中川原公民館」にたどり着きました。ここで振る舞われたのは、淡路牛入りのコロッケや淡路ぬーどるといった、これまた地元の名産品。お腹を満たしたらゴールを目指すだけ…なのですが、この先まだ13kmもあるのです。

ゴールが少しずつ近付いていることを肌で感じながらも、やはり足取りの重さは隠せません。そんななか途中のコンビニでは、「どこからいらしたんですか? あと少しがんばりましょう」と、参加者が声を掛け合い、励ましあう姿も。

あと何kmという看板がいくつも設置されているので、徐々にゴールが近づいてきていることを実感させてくれます。増大する身体への負担と、重くなるばかりの足取り。そんななか交通整理をするボランティアスタッフの皆さんの「あと少し、がんばってください~!」という声援が何よりの励みになったに違いありません。

昔ながらのレトロな商店街を抜け、さらに歩くと視界がひらけてきました。このウォーキングコースで二度目の瀬戸内海です。大浜海水浴場を越えたら、ついにゴールです!

完歩率は93%と、971人中903人もの人が、無事ゴールゲートをくぐることができました。地元の方、県外からいらした方、同級生、家族、会社の先輩と後輩、地元だからと一人でチャレンジした方。歩くスタイルや理由は人それぞれであるように、きっと参加者ひとりひとりにドラマがあったはず。今秋には「東京エクストリームウォーク100」「関西エクストリームウォーク100」が開催されますが、もし長距離ウォーキングを一度もしたことがないという方は、これを機にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。今までに体験したことのない、歩くからこそ見えてくる世界がきっとあるはず。

友人、家族、恋人と。
それぞれのエクストリームウォーク

小嶋亮子さん(左)と小山知郁子さん(右)のお二人は高校の同級生。このイベントに参加するために京都からやってきたそう。ウォーキングイベントは今回が初参加だそうですが、普段からトレランやランなどをたしなんでいるだけあって、軽快な足取りが印象的でした。「SNSでたまたまこのイベントの存在を知って応募しました。以前、二人で45km歩いたことがあるんですが、50kmは未知の領域。辛かったですが、2人だから乗り越えられたし、何より景色の良さに救われました」。
平岡美明さん(左)伸授さん(右)は大阪から親子で参加。「54歳の誕生日を迎えて何か新しいことをはじめたいと思って、以前100kmのエクストリームウォークに参加したんです。それを見た息子が、今度は自分も参加したいといってくれて今回のイベントに応募しました」。そんなお父さんに尊敬の念を抱いていた伸授さんですが、若いだけあってペースも速くゴールは別々だったそう(笑)。普段からスポーツをされているんですか? との問いに「普段はまったくスポーツなどはしていないですよ」との返答。お見事です。
岩崎達公御(たくみ)さん、宮川詩織さんのお二人は付き合って2年目のカップル。宮川さんは以前フルマラソンを完走したことがあるそうですが「二人でフルマラソンに出ても別々になってしまいますが、ウォーキングイベントなら二人でも楽しめるかなと思って」と応募の動機を話してくれました。岩崎さんは10km地点から足が痛くなり、痛みを引きずりつつの完歩だったとのこと。おつかれさまでした…!

アシックスの面々も今回のイベントに参加し、完歩の喜びを噛みしめていました。メンバーのうち4人が初めての長距離ウォーキングだったそう。「私は社内でイベントの運営に携わっているのですが、参加したメンバーに話を聞くとそれぞれが新しい発見があったと言われて、すごくうれしくなりました。マラソンは市民権を得ていますが、ウォーキングの大会はまだまだマイナーな存在なので、歩くことの楽しさや奥深さをもっとたくさんの人と共有できたらうれしいなと思っています」。そう話してくれたのは一番左に写る白井美紀さん。今年の11月には「Sunrise to Sunset」という渋谷から豊洲までの42.195kmを歩くウォーキングイベントをやるとのこと。こちらもぜひチェックしてみてください。

Photo : Kohei Watanabe
Edit+Text : Teruyasu Kuriyama(Harmonics inc.)