世の中をフェーズフリーで満たす“はじめの一歩”。<br> 武田真一さん
日常時と非常時のフェーズをフリーに
WHAT’S PHASE FREE?
#03 フリーアナウンサー・武田真一さんインタビュー

#Story 2023.10.12

世の中をフェーズフリーで満たす“はじめの一歩”。
武田真一さん

「日常時」と「非常時」のフェーズを分けず、普段使っているモノコトを災害時にも役立てようとする「フェーズフリー」。防災の新しいコンセプトはマーケットのトレンドワードとしても注目されています。2023年9月9日には、フェーズフリーなモノコトを表彰する「フェーズフリーアワード2023」を開催。今年も新たなプロダクト、サービス、施設などが評価され、有識者たちによるシンポジウムでは、社会にフェーズフリーを実装していくためのディスカッションが繰り広げられました。
シンポジウムのファシリテーターを務めたのは、フリーアナウンサーの武田真一さん。武田さんはNHK時代に30年以上、数多くの災害報道に携わってきたプロフェッショナルです。ご自身の経験に基づく災害報道やフェーズフリーのあり方とは。そして、スーツスタイルでお馴染みの武田さんの足元にはいつも革靴が光っていますが、当日はフェーズフリー認証されたアシックスウォーキングのRunwalkでした。靴好きでもある武田さんの目にRunwalkはどう映ったのか。その魅力を紐解きます。

“できれば”ではなく“本気”で、一人も命を失わせない

――武田さんはNHKに入局後、報道という立場から災害に向き合ってきました。どんな意識で災害報道に関わっていたのでしょうか。

僕は1990年にNHKに入局したんですが、当時から災害報道は人の命を守るためにあるというものでした。だけど、地震速報や津波警報といった気象庁が出すような情報は、「本当に津波が来る!」という現象に追いつかないケースが多かったんですね。例えば、1993年に北海道の奥尻島で起きた北海道南西沖地震では、津波警報の伝達が間に合わなかった。ですから、僕らは災害報道で命を守ると言いつつも、どんなことが起きたのかという出来事を伝える側面が強かったと思います。

――事実を伝えることに重きがあったんですね。

事件や事故の報道と同じように、起きたことを事後的に伝えるのが災害報道の主な役割で、うまくいけば事前に人の命を守ることができるかもしれない、というくらいの温度感だったんですね。それが気象庁の観測システムや情報伝達の仕組みが進化したことで、放送や情報を通じて命を守れる可能性が高まってきました。僕は阪神淡路大震災のときに淡路島の現場に行ったんですけど、そこではじめて未曾有の大規模災害を目の当たりにしたんですね。災害報道は一生関わっていきたい大きなテーマだと自覚していたものの、当時に思ったのは、我々の報道で “できれば”命を救えるんじゃないか、ではなくて、“本当に”命を救うんだ、と本気で思わないとダメだということなんです。

――ご自身の声と言葉で人々の命を救うということに、本気で向き合うきっかけになったんですね。

僕はその後、東京に異動になって、ニュースセンターで主に緊急報道を担当する役割になったんですね。日中に起きたあらゆることを報じるんですよ。なかでも一番大きなミッションが災害でした。例えば、アナウンサー向けの災害報道時のマニュアルみたいなものがなかったので、自分なりにつくったり、テレビゲームのような感じで災害報道をPC上でシミュレーションできるシステムをつくってもらったり、そういったものをみんなと共有して、「どうすれば、命が救える放送になるんだろうか?」ということを研究してきました。その成果がある程度出て、これで大丈夫じゃないかなと思った矢先に起きたのが、東日本大震災だったんですね。

――東日本大震災では、それまで準備してきたことはうまくいったのでしょうか。

あのときの報道は、僕らが用意していたマニュアルどおりにはある程度できたんです。スムーズに放送もできたし、NHKのリアルタイムな報道については国際的な評価をいただいてはいたんですけど、それでもおよそ2万人もの犠牲が出てしまったことをとらえると、僕らの報道って役に立たなかったなという思いを強く持ったんですね。それまでは「一人でも多くの人の命を救いたい」といった言葉を使ってたんです。そうではなく、「一人も命を失わせない」。そのために、僕らは何ができるんだろうか。それからすべての放送のやり方を見直そうということで、5年ほどかけてシステムやマニュアルを変えたり、視聴者のみなさんにどう具体的に呼びかけるかということを見直しました。

――災害は想定外の事態だから、災害報道もマニュアルどおりに進まないことばかりなんじゃないのかなと思うんです。

基本的には気象庁が出す情報の範囲内でしか、僕らは命を救える情報を出すことはできなかったのですが、いまは気象庁の情報がなくても、あらゆる場所にロボットカメラが普及していますので、リアルタイムで映像を届けることができる。あるいはX(旧Twitter)でも、視聴者のみなさんから一次情報が入ってくる。そうした情報もフルに活用してマニュアルを超えたところで、どうやって僕らは命を救う放送ができるのか。いろいろなことを考えるきっかけになりました。

備えることを求めることへの違和感

――武田さんは2023年2月にフリーに転身して、日本テレビ系『DayDay.』のMCを担当していますが、情報番組のMCとして災害報道に携わる可能性はありますよね。

NHK時代の僕のミッションの中心は、減災・防災・災害報道でしたけど、フリーになったいまの役割は情報番組のMCですから、日本テレビの災害報道に僕が中心になって関わるという立場じゃないんですよね。一人のタレントなので、以前のような立場で関わることはできないんだろうなと思っていて。今日のフェーズフリーアワードのファシリテーターのように、これまでの経験を基に、自分が共感できる活動を後押ししていく。あるいは、災害報道をやってきた知識や思いをみなさんにも伝えて、より良い仕組み、強靭な社会をつくっていくお手伝いができればと思っているんですね。

――武田さんのお話を踏まえると、災害報道にはインフォメーション(情報伝達)とコミュニケーション(対話)という二つの側面があると感じました。これからはコミュニケーションにフォーカスしていくのでしょうか。

おっしゃるとおりですね。僕は東京に住んでいて、関東大震災から100年間、それほど大きな災害には合っていないけど、それは被災していないだけの“未災”なんですよね。僕は未災地にたまたま住んでいる者として、被災を経験した方々と同じ立場で交流して繋がりを持ちたい、一人の人間として関わっていきたいという気持ちが強いです。いままでは一方的に情報を伝えることをやってきましたけど、これからは個人として被災地の方たち、あるいはフェーズフリーのような防災に関する活動をしている方々とコミュニケーションをとるなかで、自分の考えを発信していきたいんですね。

――武田さんがフェーズフリーを知ったきっかけを教えてください。そのコンセプトを知って、どう思いましたか?

毎年のように台風や大雨の災害が起きて、「逃げてください、避難してください」と、一生懸命に声を枯らしているんですけど、それでも犠牲をゼロにすることはできなくて。もしかして、備えることを求めることが何か違うんじゃないか。あるいは、僕らが一方的に備えに関する知識を伝えるっていうことに限界があるんじゃないか、と思っていたんです。そこにフェーズフリー協会代表理事の佐藤さんからフェーズフリーのコンセプトを伺って、「これだ!」と思ったんですよね。みなさんが日常の暮らしを豊かにしながら、それが防災や減災に繋がっていく。そんな自然に社会のレジリエンスが高まっていく仕組みができたら、本当に素晴らしいなと。目を開かれる思いがしました。

――フェーズフリーを自分の生活にも取り入れていたかもしれない。あるいはその考え方を知ったことで、自身の生活に取り入れているフェーズフリーはありますか?

僕、2021年春から大阪で単身赴任だったんですよ。一人暮らし用に家具が必要になるじゃないですか。どんなものを買おうかなと思ったときに、ほとんどキャンプ用品で揃えたんですね。例えば、ソファじゃなくて折りたたみできるキャンプ用の椅子、包丁じゃなくて持ち運びが簡単なキャンプ用のナイフ、明かりもランタンにするとか。アウトドアのものって自然と触れ合える雰囲気もあるし、プロダクトとしてもすごく楽しい。いざとなったら僕の身を守ってくれるような安心感もある。そうやって日常と非常時を地続きのものとしてイメージしつつ、日々の暮らしを豊かに、楽しくするって、フェーズフリーだったかもしれないなって。

――ユーザーとしてはユーティリティのあるものがお好きですか?

どちらかといえば、クラシカルでオーセンティックなものが大好きですね。でも、ゴアテックスファブリクスを搭載した機能性のある服とかは好きですよ。やはり一枚あるだけで安心感がありますから。普段はオシャレで、いざというときに自分の身を守ってくれる。フェーズフリーの付加価値は、この災害の多い日本だからこそ生まれるし発信していける、新しいコンセプトなんじゃないかなと思います。

Runwalkはソールの音がしにくいし、履いていても足への負担が少ない

――武田さんにはフェーズフリーアワード 2023に合わせて、フェーズフリー認証されたRunwalkを履いてきていただきました。

東日本大震災のときに帰宅困難になった方がたくさんいて、それから会社のロッカーにスニーカーを置いておくようになりましたよね。僕らもそれを促すことを盛んに発信したんですよ。でも、よく考えると、それって何か違うよなと。普段は履いていないスニーカーをわざわざ置いておかなきゃいけないし、そもそも普段から足に負担がかかるような革靴を履いていなきゃいけないってなんなんだ?って。

――日常時に使いながら非常時にも役立つ靴を備える。その考え方はまさにフェーズフリーです。

このRunwalkはまさに帰宅困難時に役立ちますよね。ただ快適に歩けるだけじゃなくて、いい靴のディテールが表現された上質な革靴にしか見えません。ファッション性が高く、ビジネスシーンでも履けますし、上質なキップレザーの内側にゴアテックスファブリクスが使われているから雨の日も靴の中は快適です。ソール部分にはアシックスのスポーツシューズの機能を応用したクッション性が備わっていて。そのアイディアも技術も必然性も素晴らしい、スポーツ用品メーカーのアシックスだからつくれる革靴だと思います。

――武田さんはブリティッシュカルチャーが好きと聞きましたが、イギリスといえば伝統的な革靴文化の国ですよね。

伝統的なレザーソールは大好きですけど、Runwalkのようなラバー底の革靴は大事なんです。スタジオって結構移動が多くて、レザーソールはカツカツ音がするんですよ。Runwalkはソールの音がしにくいし、履いていても足への負担が少ないですから。実は今回、日本テレビのある汐留から生放送の帰りに銀座のお店(ASICS RUNWALK GINZA)で僕の足の形を測っていただいたんですね。自分のサイズの基準を知ることができましたし、自分の足に合ったRunwalkを選ぶことができました。あとは僕が履いているモデルは一度だけオールソール取り替えができると伺って。ボロボロになっても修理しながら履くことが革靴の良さなので、僕みたいな伝統的な靴好きの心もくすぐってくれるんですよね。

――武田さんが体験した3次元足形計測はアシックスウォーキングならではのサービスですが、アシックスというブランド自体にはどんなイメージがありますか?

中学生のとき、ハノーバーというスポーツシューズを履いていました。他にもボストンとか世界の地名が付いているモデルがいくつかあって、めちゃくちゃ流行ったんですよ。それがぼくのファーストアシックスです。アメリカのボストン、ドイツのハノーバーってどんな街なんだろうと、熊本の田舎の中学生にはすごくかっこよく見えていましたね。アシックスウォーキングの存在は知っていましたよ。ウォーキングシューズタイプの革靴って、いわゆるウォーキングシューズの形じゃないですか。僕にはスーツに合わせづらいし、カジュアルな格好にも浮いている感じがあるんです。だけど、Runwalkはばっちりですね。

――そうやって、Runwalkがいろいろな日常時に軸足を置けると、非常時での利用がもっとイメージしやすくなると思うんです。

今日のアワードのシンポジウムでも印象的でしたけど、これからフェーズフリーのコンセプトが浸透していくと思うんですね。プロダクトだけじゃなくて、サービス、施設とか、いろいろなジャンルに広がっていくことはもちろん大事なことです。そういう意味では、Runwalkは世の中をフェーズフリーで満たすための、まさに“第1歩”になる象徴的な製品だとリスペクトしています。

PROFILE

武田真一
フリーアナウンサー
1967年、熊本県生まれ。1990年にNHKに入局。『NHKニュース』『クローズアップ現代プラス』『NHKスペシャル』など数多くの番組を担当し、事件・事故・災害の報道にも携わってきた。2023年2月にはNHKを退局し、フリーアナウンサーに転身。4月からは日本テレビの情報番組『DayDay.』(月-木9時-11時10分、金9時-10時25分)のMCに就任。報道の枠にとらわれない活動を展開している。
Photo:Sonoko Senuma
Edit+Text : Shota Kato(OVER THE MOUNTAIN)