フェーズフリーが教えてくれた、Runwalkの新しい魅力
日常時と非常時のフェーズをフリーに
WHAT’S PHASE FREE?
#01 Runwalkがフェーズフリーに選出された理由

#Story 2023.08.31

フェーズフリーが教えてくれた、Runwalkの新しい魅力

フェーズフリーは、日常時と非常時のフェーズをフリーにして生活の質を高めようとする、防災に関わる新しい考え方です。私たちはいつも使っているモノやサービスを、もしものときにも役立つようデザインする。そのコンセプトを体現するプロダクトとして、ASICS WALKINGのRunwalkが選ばれました。ASICSのスポーツテクノロジーと革靴のクラフトマンシップを融合させたRunwalkは、なぜフェーズフリーに選出されたのか。フェーズフリー協会代表理事・佐藤唯行さんとアシックスウォーキング企画開発部でRunwalkを手がける西川雅俊との対話から、防災の理想的なあり方が見えてきました。

僕も東日本大震災で、Runwalkを履いていた一人でした

――Runwalkのフェーズフリー認証について、どのようなポイントが評価されたのでしょうか。

佐藤:フェーズフリーとは汎用性×有効性なんです。いかに日常時に幅広く使えて、非常時にも役立たせることができるのか。汎用性とは、対象が多いこと(Who)、いろいろな場所(Where)、いろいろなとき(When)、いろいろな課題(Why)に対応できる、という4つのWで表せるんです。ゴアテックスを採用したRunwalkは、ビジネスシーンだけでなく雨の日の移動でも活躍してくれる。一般的な革靴は出張などで長時間履いていると歩きづらくて足への負担が大きくなってしまいがち。でも、RunwalkはASICSがスポーツシューズで培ってきた機能を応用しているから、歩きやすくて足への負担が少ない。つまり、日常の利用シーンが広がって、かつ日常の課題も解決してくれるんです。

――それを非常時に置き換えると、どういうことですか?

佐藤:Runwalkの歩きやすさや快適さ、防水性やグリップ性能によって、災害時に咄嗟に逃げることができますよね。例えば、東日本大震災のときに、東京も公共機関が麻痺して、みなさんが帰宅困難者になりました。自宅まで歩いて帰らなきゃいけない。歩いて帰れない場合は、安全な場所に待機したり避難したり。でも、歩行性能に優れたRunwalkを履いていれば、家まで歩いて帰ることができる。Runwalkのビジネスシーンを豊かにしているシューズとしてのあり方が、いざ災害時に多くの帰宅困難者が発生しても、非常時の課題を解決してくれるんです。

――西川さんはRunwalkがフェーズフリー認証されたことをどう思いましたか?

西川:実際に東日本大震災で帰宅困難になった何人かの方がRunwalkを履いていて、何時間も歩けたいう話は聞いていました。でも、フェーズフリーという考え方自体は認証されてはじめて知りましたね。日常と非常時をフリーにするものとしてとらえていただけると、世の中にたくさんある靴の中で、ビジネスシーンを豊かにするRunwalkがこれまでと少し違った見え方になるので、新たな魅力を発見できてうれしかったです。

佐藤:僕も東日本大震災のときにRunwalkを履いて歩いて帰った一人なんです。最初に妻にプレゼントされてから、もう10年以上は履いていますね。1年で大体2足は買い替えているから、今日履いているのは20代目くらいになるのかな。

西川:ありがとうございます。僕が履いているモデルは2022年9月に発売したスマートシューズです。

※スマートシューズ「RUNWALK ORPHE」はフェーズフリー認証商品ではありません。

伝統に逆行する、現代的でハイブリッドな革靴

――Runwalkはどんな目的から開発されたシューズなのでしょうか?

西川:RUNWALKは創業者の鬼塚喜八郎がウォーキングシューズを構想したところからスタートしています。国際的なスポーツ大会の開会式で、オニツカのトレーニングシューズを履いたブレザー姿の日本選手団を見た時に「ブレザーに合う靴、どんなときも人々の足を守る靴をつくりたい」と思い立ったことがきっかけです。Runwalkという名前としては1994年にスタートしました。「走れる革靴」ということでRunwalkなのですが、RUNとWALKという二面性があるという意味では、フェーズフリーの日常と非常時につながる部分があるのかもしれません。

――RunwalkはASICSがスポーツシューズで培ってきた機能を応用したシューズですが、同時に革靴としての品格も両立させなければいけませんよね。

西川:まさに革靴なので品格は求められます。そこに高い次元で快適性を融合させていて。革靴はスポーツシューズと違って、100年ぐらい進化していないんですね。いまも伝統的なグッドイヤーウェルト製法のようなクラフトマンシップでつくられているものがありますが、Runwalkは伝統に逆行する現代的なセメンテッド製法でつくっていて。セメンテッド製法は快適さを追求しつつ、クラフトマンシップを注入して品格を出すアプローチです。一言でいえば、Runwalkはクラフトマンシップによる品格とスポーツテクノロジーを融合させたハイブリッドな革靴ですが、その裏側では、ラスト(靴型)や吊り込みなどで、かなり緻密でマニアックなディテールにこだわっているんですよ。

佐藤:フェーズフリーは大前提として日常に軸足があるんですね。靴の本質的な価値を高めていった結果、ついでに非常時の問題が解決できてしまった。それはまさにフェーズフリーなんですよ。なので、Runwalkは典型的で秀逸なフェーズフリーデザインです。日常と非常時というフェーズの壁を自動的に乗り越えてしまったことがすごくいい。

――Runwalkはフェーズフリーの代名詞的な存在なんですね。

佐藤:商品が売れることはフェーズフリーにおいて重要です。それはどういうことかと言うと、売れるということは、多くの人たちに届いている状態ですよね。逆に言えば、ほとんどのみなさんは防災商品を持っていませんから。

時代のニーズを満たす、ASICS WALKINGの8つの機能

――Runwalkは「ブレザーに合う靴、どんなときも人々の足を守る靴をつくりたい」という目的を掲げて、どんな要素を重視して開発された靴なのですか。

西川:開発理念として、ASICS WALKINGのシューズは8つの機能をバランスよく搭載していることが基本スペックになっています。クッション性、安定性、グリップ性、屈曲性、フィット性、耐久性、通気性、軽量性といった機能を搭載していることが基本なんです。例えば、ゴアテックスァブリクス搭載のRunwalkであれば、防水・透湿性に優れているとか、屈曲しやすいようにラバーの厚みを薄くしたり、スポンジの厚みを大きくしたりして、微妙な調整によって靴が屈曲するような配慮をしているとか。結果として、それらがフェーズフリーにつながっていた。我々の開発理念が世の中が求めるニーズだったということが裏付けとしてあるのもしれません。

佐藤:我々もRunwalkのフェーズフリー認証はすごくありがたいことなんです。この靴のおかげでフェーズフリーという概念を理解しやすくなったといっても過言ではなくて。いつか、靴はフェーズフリーマークの付いたRunwalkが選ばれる、という状況になってくれるといいですね。そうなれば、この繰り返される災害時における課題が解決できると考えています。

――フェーズフリー認証されている商品やサービスが選ばれることがベストですが、その人なりのフェーズフリーが見つかることも大切だと思います。

佐藤:そうなんですよね。フェーズフリー認証されている商品になりますが、トヨタのプリウスPHVは、普段は燃費が良くてエコロジーで、環境にもお財布にも優しいというクルマだけど、実は燃費のよさを叶えるモーターやバッテリーは、災害時の家庭の電源になってくれる。これまでは非常用の発電機を備えなきゃと思っていたけど、燃費のいい車が電源にもなるのであれば買いたい、という話になるかもしれません。それがフェーズフリーの考え方だということが伝わってくると、僕らはもっと暮らしやすくなっていくと思うんです。

西川:本来の車の価値が別のものに置き換わるというのはユニークですよね。それは靴にも当てはまるかもしれませんし、歩くという行為をもっと快適にできるように、既存の枠を飛び越えられたらおもしろいなと。

佐藤:例えば、靴のクッション性を高めるバネのようなものから通気性を高める風のようなものが出てくるとか(笑)。いかにこの靴の機能が日常を豊かにするか。その考えの延長線上に何かできることがあるんじゃないか、という視点が大切なんです。

Runwalkによって、フェーズフリーは新たなフェーズへ

――ひとつの靴を日常時に軸足を置きながら非常時にも使えるというのは、サステナビリティの文脈でも訴求できることだと思います。人によってはサステナビリティは自分から遠いことのように感じるかもしれませんが、フェーズフリーの日常時と非常時を隔てない考え方はそのハードルを下げる効果もありますよね。

佐藤:たしかに、サステナブルな文脈でフェーズフリーをとらえてくださる方も多いです。大きく分けると、そこにはふたつの意味があって。ひとつはいままでの防災用品を備え続けるという行為が持続可能な取り組みではなかった。でも、フェーズフリーは普段の私たちの暮らしに役に立っているから、持続可能な取り組みになりますよね。しかも、それを使ってると、日常でも非常でも暮らしをしっかりとデザインできている。この2つの意味で、サステナブルな暮らしになっているんです。その点でも、Runwalkは取り組みやすい商品ですね。

西川:災害が繰り返される日本のような国において、備えることの難しさからフェーズフリーの概念が生まれた。それを考えると、より日本的で身近に入ってきやすい考え方だと思います。

佐藤:身近というのは防災の反省点でもあるんですよ。大切なのは、僕らが普段から使いたくなるという前提で提案することであって。

――高機能で使いやすい製品が豊富な現代では、フェーズフリーを浸透させやすいと思います。フェーズフリーを浸透させるために直面している課題はなんでしょうか。

佐藤:フェーズフリー認証の申請が多すぎて、いまは約3カ月待ちの状態なんです。ありがたいことにたくさんのエントリーをいただいているけど、なかには非常時に軸を置いたものもある。そういうものはフェーズフリーのコンセプトから外れているんですね。日常に軸足があって非常時も役立つ。それがフェーズフリーの真骨頂。なんとなく伝わっているフェーズフリーとぼくが訴えているフェーズフリーには若干の温度差があって、僕がわざわざそれを説明しなくても伝わっている状態が理想なんです。そこで具体的な商品が早く広まってほしいんですよ。Runwalkが売れるほど社会課題を解決してくれますし、僕も説明がラクになる(笑)。Runwalkという象徴的なプロダクトによって、フェーズフリーがまた新しいフェーズに進める予感がしています。

西川:それはRunwalkにも言えることですね。フェーズフリーの文脈からプロダクトストーリーを効果的に伝えられると、絶対にもっと普及できるシューズだと思います。

PROFILE

佐藤唯行
一般社団法人フェーズフリー協会 代表理事/スぺラディウス株式会社 代表取締役
1971年、東京都生まれ。国内外で多くの社会基盤整備および災害復旧・復興事業を手掛け、世界中でさまざまな災害が同じように繰り返されてしまう現状を目の当たりにしてきた。その経験・研究に基づき、防災を持続可能なビジネスとして多角的に展開。そのひとつとして世界ではじめてフェーズフリーを提唱し、その推進における根源的な役割を担っている。

PROFILE

西川雅俊
株式会社アシックス_ウォーキング統括部 ウォーキング企画開発部 ウォーキング企画チーム所属
2011年に入社し、婦人靴の開発に約3年携わる。その後紳士靴の開発を約8年担当。現在は企画チームに配属となりランウォークメンズ、ランウォークレディースを担当。
Photo:Sonoko Senuma
Edit+Text : Shota Kato(OVER THE MOUNTAIN)