有森裕子さんと開発者が語る「RIDEWALK」<br> 転がりやすさと安定感。 矛盾する機能をひとつに
有森裕子と開発者が語る(前編)
RIDEWALK INTERVIEW
転がりやすさと安定感。
矛盾する機能をひとつに

#Story 2022.09.07

有森裕子さんと開発者が語る「RIDEWALK」
転がりやすさと安定感。 矛盾する機能をひとつに

「RIDEWALKシリーズ」は、ランニングシューズで培った「GUIDESOLE」テクノロジーをウォーキングシューズに採用し、ソールの前足部に「FLAT ZONE」を設けて転がるような軽快感と安定した歩行感覚を両立した新感覚シューズとして登場しました。
今回はそんな「RIDEWALKシリーズ」の魅力と「歩くこと」を深掘りすべく、元プロマラソンランナーの有森裕子さんと、RIDEWALKの開発者である鏡味佳奈の対談を実施。
前編では、RIDEWALKの特徴と開発秘話を語ってもらいました。

ウォーキングに求められるソールの機能とは

有森:プロランナーを引退して15年になるんですが、実は今ではランニングよりもウォーキングをすることの方がずっと多いんです。「RIDEWALK」は最近履きはじめたんですが、すごく歩きやすいですね。

鏡味:ありがとうございます。

有森:歩きやすさの理由はこのソールですよね。

鏡味:はい。元々ランニングシューズ向けに開発された「GUIDESOLE」というテクノロジーを活用しています。ソールがつま先部分に向かって大きくカーブしていて、足が地面に着くたびにシューズが前へと転がっていきます。それによって足首の余計な動きを少なくして走行効率を高めるというテクノロジーです。今回それをウォーキングシューズに転用させるにあたって、新たに「FLAT ZONE」という構造も開発しました。

カーブ形状のソールがコロンと転がるような動きを生み出すことで、歩行時の足首部の負担を軽減。
足首関節(ふくらはぎまわり)のエネルギー消費を抑えることで、歩行効率を高めてくれます。

カーブ形状のソールがコロンと転がるような動きを生み出すことで、歩行時の足首部の負担を軽減。足首関節(ふくらはぎまわり)のエネルギー消費を抑えることで、歩行効率を高めてくれます。

有森:やっぱりランニングとウォーキングでは、ソールに求められる役割が違いますからね。

鏡味:ランニングと違って、ウォーキングでは両足ともに地面に着いている瞬間があります。また信号待ちで止まったり、揺れる電車で立ったまま移動したりといったシーンもあるので、あまり前に転がりすぎるソールだと日常使いでは不便なんです。そこで平らな面になっているFLAT ZONEを設けて、足が着地したときの安定感をアップさせました。

ランニング用のGUIDESOLEでは、ウォーキング時には転がりすぎて逆にエネルギーロスが発生してしまいます。
そこでRIDEWALKシリーズはソールの前側部に面領域を設けることで転がりすぎを制御し、ウォーキングに特化したエナジーセービングを行います。

ランニング用のGUIDESOLEでは、ウォーキング時には転がりすぎて逆にエネルギーロスが発生してしまいます。そこでRIDEWALKシリーズはソールの前側部に面領域を設けることで転がりすぎを制御し、ウォーキングに特化したエナジーセービングを行います。

有森:たしかに「コロン」と前に転がっていく感覚はあるんですけど、ちょうどいいタイミングでFLAT ZONEが接地して余計な転がりを止めてくれる。楽に足を運べるのに安定感があったのは、そういう理由だったんですね。

鏡味:「転がり」と「安定」という、一見矛盾するような機能を両立させているのが、このシューズの最大の特徴だと思います。

数ミリ単位の検証を何度も重ねて

有森:開発には相当苦労されたのではないですか?

鏡味:RIDEWALKを作るにあたっては、機能的にも履いたときの感覚的にも、それまでにない全く新しいシューズにしたいという思いがありました。そのために、通常は工場に試作品をオーダーして作ってもらうんですが、今回は研究所内で、自分たちの手で試作品を作って何度も試行錯誤を重ねました。靴底のカーブがはじまるポイントも数ミリ単位で変えて検証しています。ご覧いただくと分かると思うんですが、このカーブの曲率も一定じゃないんですよ。

有森:あぁ、なるほど。

鏡味:ソールを横から見たときに、最初に地面を蹴り出す中央寄りのエリアは、曲率を上げて転がりやすくしています。そしてその先のFLAT ZONEで足を安定させる。最後につま先部分を緩やかにカーブさせて足の抜けを良くしました。この3カ所の曲率をよりよいものにするために、3Dモデルを制作したり、複数社員が試作品を履いて20km以上歩いたり…。

有森:え、すごい(笑)。

鏡味:やっぱり、数値など理論的な裏付けも大事ですが、実際に人間が履いたときの感覚も良くないと製品にはできませんから。

有森:だから特殊なソールにも関わらず、私も最初から違和感なく履くことができたんですね。実際に履き続けてみて、「転がりすぎない」というのはとても重要なポイントだと思いました。私はふくらはぎの筋力をちゃんと使いながら、つま先で地面を蹴って歩くのがいいと思っていて。でもシューズが転がりすぎると、ふくらはぎを使わずに済んでしまう。

鏡味:そうですね。

有森:だからRIDEWALKのソールは、はじめ不安定そうに見えたんです。歩くときに違和感を覚えたり、変に筋肉が力んで足がつったり、そういう可能性もあるんじゃないかと。ところが実際はFLAT ZONEによって転がりすぎることなく、自分の足で地面を蹴りながら進んでいく感覚がちゃんと残っていました。

鏡味:ある程度は転がしてあげることで、足首の余計な角度変化を抑えて歩行効率を高めてあげたい。でも一方で、転がりすぎによるエネルギーロスや不安定感は抑えたい。そこの絶妙なバランスを取るのが大変でしたね。

有森:あえてソールを不安定にして、体幹を鍛えさせるシューズもありますよね。でも痩せたいとか、体幹を強くしたい人なら別ですが、万人にそれをさせるとトラブルのもと。不安定なシューズで無理にバランスを取ろうとすると、腰や膝に負担がかかるんですよ。RIDEWALKの場合は安定感がしっかりあるので、どのような人にも履いてもらえると思います。

軽いシューズがいいとは限らない

鏡味:実は今回対談というせっかくの機会だったので、有森さんがウォーキングシューズに求めるものをお伺いしたかったんです。今後のシューズ作りにも生かせればなと思いつつ。

有森:私の好みになっちゃうけど、いいですか(笑)。

鏡味:もちろん構いません。お願いします(笑)。

有森:ひとつはカラーバリエーションですかね。たとえば今のRIDEWALKのカラーラインナップは、いろいろな服装やシーンに合うシックな感じで好きです。でも、赤とか黄色とかピンクといった明るい色があってもいいのかなって。そういうシューズを履いて歩くと心がウキウキするし、モチベーションも上がるんですよね。でも色によっては素材を変えたりしないといけないでしょうし、作る方は大変かも(笑)。

鏡味:(笑)。でもすごく分かります。選ぶ楽しさも増えますしね。

有森:そう! 楽しく長く歩くために、色はけっこう重要かなと思ってます。あと普段から私が気にしているのがシューズの重さですね。軽い方がいいという傾向がありますが、私の場合は逆で、むしろある程度重さがあった方がいいんです。

鏡味:遠心力が使えた方がいい、ということですかね?

有森:そうです。特に足の柔軟性や体のバネがそれほどない人にとっては、遠心力を使って振り子の原理で足を運ぶ方が楽に歩けるケースもあるんですよ。

鏡味:なるほど。

有森:実は私がマラソン選手で現役だった頃、すでにシューズはどんどん軽量化されていく傾向にありました。でも私はアシックスのシューズ開発担当者さんに「私のシューズは重いままでいい」とお願いしていたんです。おそらく当時のランナーの中で、私の使っていたシューズが一番重かったはずです。

鏡味:そうだったんですか。

有森:シューズって軽ければ軽いほどいいとも限らなくて、その人の好みや体のつくりによっては重い方がいい場合もある。これはシューズを作る側だけでなく、選ぶユーザーの方々も念頭に置いてみるといいかもしれないですね。

鏡味:ありがとうございます。参考になることばかりで、次のシューズ作りに向けてさらにモチベーションが上がりました!

PROFILE

有森裕子(アリモリ ユウコ)
1966年、岡山県生まれ。元プロマラソンランナー。日本体育大学を卒業後、株式会社リクルートに入社。女子マラソン代表としてバルセロナオリンピックで銀メダル、アトランタオリンピックでは銅メダルを獲得。1995年にはプロ宣言を行い、日本初のプロマラソンランナーとなった。2007年に競技生活から引退。現在では、日本陸上競技連盟の副会長を務める等、幅広い分野でスポーツ振興に関わっている。

PROFILE

鏡味佳奈(カガミ カナ)
アシックススポーツ工学研究所 フットウエア機能研究チーム所属。数々のランニングシューズの開発に従事したのち、ランニングシューズで培ったテクノロジーをウォーキングシューズに転用した「RIDEWALK」で主にソール部分の開発を担当。