ものを大切にして、循環させる<br>「リビセン」夫婦の諏訪での子育て
子どもたちの未来のために「想いをつなぐ。」
KIDS’ FUTURE TALK
ReBuilding Center JAPAN ・東野唯史,華南子

#KIDS 2023.02.27

ものを大切にして、循環させる
「リビセン」夫婦の諏訪での子育て

子どもたちの健やかな足の成長を守り、応援するスクスクがお届けする、親から子へと想いをつなぐスペシャルインタビュー。今回登場するのは、長野県諏訪市にて古材と古道具を新しい価値観で展開、販売するリサイクルショップ「ReBuilding Center JAPAN(リビルディングセンタージャパン)」を営む東野唯史、華南子さんご夫婦。「捨てられるものや忘れられていく文化を見つめ直し、再び誰かの生活を豊かにする仕組みをつくる」という新しい文化を提唱するお二人に、ものを大切にすること、循環させることから見えてくる子育てや、地方でのくらしの魅力について尋ねます。

仕事は社会にいいことを楽しくやるもの。
リビセンでやっていることは、まさにそれだと思う。

ーーまず「ReBuilding Center JAPAN」をお二人でどのようにはじめられたのか、教えてください。

唯史さん:もともと僕たち夫婦は空間デザインを手がける「medicala(メヂカラ)」というユニットをやっていました。全国を巡って2人でいろんなお店を作りながら、いい空間を作るにはどういうことが必要か、愛される店とはどういう店なのかをずっと考えていたんです。そんな中、新婚旅行で訪れたアメリカ・ポートランドで「ReBuilding Center」と出合ったんです。そこは、単なる不用品や古材を並べ販売するだけのジャンクショップじゃなかった。“ものを大切に使いつづける文化”が根付いていて、お店のスタッフにも訪れるお客さんにも、そんな店の理念や理想に対する愛情がしっかりと感じられた。ああ、日本に必要なのはこういうお店なのかもしれない、と思いました。

華南子さん:「ReBuilding Center」のようなお店を日本ではじめたい、と東野さん(唯史さん)から言われたときは、正直そんなことができるのかと半信半疑でした。やりたいなら手伝うよと「『ReBuilding Center』の名前を使って日本であなたたちのようなお店を開かせてほしい」とメールを書いてお願いしてみたらすぐに快諾の返事がもらえて。正式に屋号として「ReBuilding Center JAPAN(以下、リビセン)」が使えることになりました。それなら覚悟を決めてやらなければ!となりました。

唯史さん:全国を巡りながら、お店づくりをしていると日本の家屋は空き家が多いことに気づいたんです。今、日本の空き家率はおよそ14%、年に8万5000軒も解体されていると言われています。1軒の解体で出る産業廃棄物は10トンを超えます。それらの廃材がすべて再利用できればいいのですが、その多くの再利用先となるのが焼却炉で燃やして熱エネルギーを回収するサーマルリサイクル。または、木材チップなどに加工するマテリアルリサイクルなどです。リサイクルはもちろん大事ですが、それさえも加工するのにエネルギーコストがかかります。木材をそのまま木材としてリユースすれば不要なエネルギーは使いません。僕たちは解体される現場から古材や古道具を引き取ることを「レスキュー」と呼んでいます。まだ使える古材や古物をそのままに循環させれば環境負荷は減る。そのやり方を示して、本国にある「ReBuilding Center」のような文化を日本全国に波及できたらいいなと思いました。

ーー諏訪という場所はどのように選ばれたのでしょう。

唯史さん:お店のために諏訪を選んだのではなくて、僕らが諏訪に移住するほうが先だったんです。隣駅の下諏訪にある「マスヤゲストハウス」の空間デザインを手がけていた時、3ヵ月ほど下諏訪に滞在をしていました。華南子はアトピー持ちで夏になると症状が悪化するのですが、その夏はアトピーが出なかったんです。ちょうど拠点を東京じゃない場所に移したいと思っていたので、これはいい、と。それで住みはじめたんです。結果、諏訪はリビセンを開くのにも理想的な場所でした。人口減少が進み、古い空き家が多くあって、僕らのレスキュー対象となるエリアとしてちょうどよかった。お客さんにきてもらうという意味でも東京からも名古屋からもアクセスがしやすい。車がなくても電車で来られる場所というのも気軽でよかったと思っています。

華南子さん:諏訪に移住したのが2014年、翌年の2015年からリビセン設立に向けて動き出して、オープンしたのが2016年です。私の感覚では、諏訪に移住したのは自分が無理せずいられる場所作りだったのではないか、と感じています。新聞記者をしていた父の影響で、仕事は社会にいいことを楽しくやるものだ、という考えが私の中にもともとあって。リビセンでやっていることは、まさにそれだなと思うんです。ものを捨てたり、無駄に買ってしまったりと、都会に暮らしていたら、見過ごさないといけないことってたくさんある。それは仕方のないことも多いです。でも、諏訪にいると少しでもものを救うことができる。それが心地いいんです。

仕事も家事も、育児もチームワーク。
パートナーが動けるように家事をするのは自然なこと

ーーさらにオープンから3年たった2019年には新しい家族ができました。お子さんが生まれてからはおふたりの生活は変わりましたか?

華南子さん:もう変わりすぎて。

唯史さん:元の暮らしを忘れちゃったよね(笑)。

華南子さん:仕事も楽しかったですし、ベンチャーで起業しているし、最初の3年なんて休みなく働いて当たり前くらいに思っていましたから。仕事はした分、自分にも社会にもフィードバックがある。そう思ってがむしゃらに走っていた感じでした。

唯史さん:当時は、朝から深夜まで仕事場にいて、ほぼ休みなく働いているような感じでした。本当に仕事中心の生活です。諏訪に移住した、というと田舎暮らしを想像されるかもしれませんが、それとはほど遠いハードワークの連続だったと思います。

華南子さん:楽しかったからそれが苦でもなかったんです。でも、やりすぎて私が体を壊してしまって。これではいけないな、と自分のからだについて考えるようになりました。さらに、子どもができたことで物理的に仕事ができなくなった。今、子どもは3歳。保育園に通っています。だから、保育園に行っている間だけですよね、仕事に没頭できるのは。東野さんも、基本的に18時には仕事を終えて家に帰って、私と一緒にご飯の準備をし、共に子どもに食べさせたら、お風呂に入れてくれます。以前は、週末も休日返上で仕事をしていましたが、今は日曜祝日は息子と過ごす時間と決めています。どういう時間の使い方、子どもとの向き合い方がいいのかと、夫婦で試行錯誤をしている最中です。2人とも仕事が好きだし、仕事がしたい。お互いの仕事についても理解しているし、互いのサポートが必要だとわかっているので、仕事も家事も、育児もチームワークでやっていこうと考えています。

唯史さん:会社の代表は僕ですが、僕が苦手な分野を彼女にやってもらっている。だから、華南子の仕事が滞ると困るんですよ(笑)。それで、仕事のことも暮らしのこともやれることは、やれる人がやればいいと思うようになりました。僕の中では、仕事も家事も並列にあるものという感覚です。彼女が動けるように家事を自分がやる、というのはとても自然なことですね。

華南子さん:東野さんはとても素直な方なので(笑)、「妊娠期間中はわたしだけ大変で何もしていなかったんだから、出産後10ヵ月はあなたがすべてやってください」とお願いしたら、家事の一切を引き受けてくれた。私はそのおかげで授乳に専念できたし、その後の仕事復帰もスムーズに進めた。今は、自分のキャパシティーが10あっても10仕事することを目指さずに、7とか8でいいかな、と考えています。8使って仕事をして残った2を家で気づいたことをやる。そうすれば、自分の心も安定すると気づきました。ついでに家もきれいに片付くし、気持ちがいい。そういうゆとりもこの1年くらいでやっとできたかなという感じです。

夫婦2人だけじゃなく社会全体で子育てしてくれる。
心が軽くなる諏訪での子育て

ーー諏訪で子育てをしていてよかったと感じることはありますか?

華南子さん:「リビセン」をやっていてよかった、と心から思います。わたしたちは移住者なので、両親は遠距離です。でも、頼れるスタッフがいるのが心強い。息子の世話をみんなでやってくれます。「リビセン」の周りにはわたしたちの考えに共感して、諏訪に移住してお店を開いた方も多い。そういうお店の方々も息子にとてもよくしてくれます。お花屋さんにいけば、お花を包む作業を手伝わせてくれたり。そんな時に、夫婦2人だけじゃなくて、周囲にいる人たちや、そこにある社会全体で子育てしてくれているんだなと感じます。たぶん夫婦2人きりで抱えていたら、どちらかが辛くなっていたのでは、と思います。周りの人が「かわいいね」と子どもを認めてくれることが、とても心を軽くしてくれます。

唯史さん:移住して8年になりますが、仕事ばかりしていたのでスキー場へ行くこともなかったんです。でも、昨年はじめて息子と行ってそり遊びをしました。とてもよくて、この冬は何度か出かけました。車で20分ほどの距離で自然の中で遊べる環境があるのは、やっぱりいいなと今更ながら感じています。「リビセン」が近くにあることも、息子にいい影響があると思っています。店の1階にあるカフェをリニューアルした時に、キッズスペースを作ったのですが、その壁の左官仕上げを一緒にやったんです。それが気に入ったのか、幼稚園の砂場でも左官屋さん遊びをしているそうです。僕の持っている道具にも興味を示しているのもうれしいですね。不要なものを生かすとか、DIYで何かを自分で作ること。そういう精神が自然と伝わる環境であることは、いいことなんじゃないかなと思っています。

子どもと、たくさん散歩して
小さな頃の思い出がたくさんできたら

ーーふだんからものを大切にして、受け継ぐことを大事にしているおふたり。子どものものを選ぶときはどういうことを考えていらっしゃいますか?

華南子さん:それが本当に難しいんです。子どものものって、長く使えるいいものという概念がない。すぐに使えなくなるものが多いし、おもちゃも食器もプラスチック製のものがとても多い。プラスチックのコップは軽いし、落としても割れないし、とても便利です(笑)。でも、できれば使い捨てにせず、循環できるものを選びたい。その選びたいものと実際に使い勝手のよいものの差の間で生まれるフラストレーションはとても大きいです。

唯史さん:どうしても新しいものを買うのに抵抗があるんですよね。新しいものを買うとしても、リサイクル素材を使用しているかどうかとか、作り手の人にきちんと対価が払われているかとかが気になってしまいます。子どものものも、お下がりなど使いまわせるものは譲ってもらったり、僕たちも譲ったりしたい。でも、子どもの靴はその子の足に合う、きちんとしたものを選んだ方がいいんですよね。スクスクは再生ポリエステル素材を積極的に採用しているキッズシューズだと知りましたが、こういう素材のものがもっと増えるといいなと思います。

華南子さん:諏訪は歩いてまわるのが楽しい街なので、息子ともいいシューズを選んで、たくさん散歩をしたいです。子どもができてから、歩いて回れる範囲に好きなお店があることって大事だなって思ったんです。子どもがいると車に乗せて出かけるのもひと苦労。お散歩しながら、歩ける範囲に好きなコーヒー屋さんや本屋さんがあるのは、親にとってどんなにありがたいか。息子にとっても、この道のくぼみで転んだな、とか、小さい時の思い出が歩いた道にたくさんできたらいいなと思っています。

唯史さん:2022年には、まちづくりをする会社「すわエリアリノベーション社」を立ち上げました。諏訪で暮らしたい、営みをはじめたい人の手助けをして、このエリアがもっといろんな人が訪れて、歩いて知ることができる面白い場所になればいいなと思います。同時に、「リビセン」のサポーターズ(ボランティア)の活動も続けていきたいと思っています。「リビセン」でやっているレスキューを手伝ってもらい、店作りを学んでもらう。そのノウハウを生かしてそれぞれの地元に帰って「リビセン」みたいなお店を作ってもらう。伴走形式の「supported by リビセン」という支援もしているので、いろんな土地で、その人なりの“ものを大切にする思い”のあるお店を作ってもらえたら。それがたくさんの人々に愛されるお店になって、地域を盛り上げてくれたら、日本のいろんな場所でいい循環が生まれるんじゃないかと思っています。

PROFILE

東野 唯史さん
東野 華南子さん

あずの・ただふみ/1984年生まれ。『ReBuilding Center JAPAN』代表。大学卒業後、空間デザインの会社を経て、2014年より空間デザインユニット「medicala(メヂカラ)」として活動を開始。2016年秋、「ReBuilding Center JAPAN」を長野県・諏訪市に立ち上げる。

あずの・かなこ/1986年埼玉生まれ。幼少期は北京、上海、ロンドン、東京と国内外を転々としながら育つ。諏訪が人生ではじめての定住の地。コーヒーショップ店長やゲストハウスの女将を経て、2014年に「medicala(メヂカラ)」に参加。「ReBuilding Center JAPAN」ではカフェやイベントを中心に運営に携わる。
https://rebuildingcenter.jp/
Photo : Kazuaki Koyama
Interview & text : Kana Umehara