歩く、話す、見つける、<br class=とっておきの街歩き。
SANPO TALK -大阪 天満・樋口慎也編(アシックス ウォーキング生産チーム)-">
歩く、話す、見つける、
とっておきの街歩き。
SANPO TALK
#09 大阪の人々の想いが生んだ、歴史と芸能のシンボルをめぐる

#WELL-BEING 2023.06.21

歩く、話す、見つける、
とっておきの街歩き。
SANPO TALK -大阪 天満・樋口慎也編(アシックス ウォーキング生産チーム)-

※2023年3月時点の取材内容で構成しています。

その街をよく知るナビゲーターがおすすめの散歩コースを紹介しながら、自身のウォーキングスタイルについて語る連載企画「SANPO TALK」。第9回のナビゲーターは、大阪門真〜鶴見編に続き、アシックスのウォーキング生産チームに所属する樋口慎也が担当。今回は大阪の歴史・文化に触れられる大阪城公園や天満を巡りながら、夜通しで100kmを歩く「エクストリームウォーク」に参加したエピソードや、伝統芸能と自身の仕事の関係について聞きました。

樋口慎也がナビゲートする2回目の大阪散歩。スタート場所に指定されたのは、暖かな陽気に誘われた観光客でにぎわう大阪城公園です。

「前回(大阪門真〜鶴見編)は近所の散歩コースを紹介したので、今回は天気のいい日にめぐりたい“お出かけ散歩”がテーマ。最後に僕がどうしても行きたかったスポットもルートに入れてみました」

まずは広大な園内を歩き、大阪城ホールを右手に見ながら青屋門へ。さらに内濠にかかる極楽橋を渡りながら顔を上げると、さっきまで遠くに見えていた大阪城がだいぶ近づいてきました。

途中、眺めのいい山里口出枡形跡の石垣を上り、眼下に広がる大阪市内を見渡す樋口。もともと大阪城が大好きで、園内各所で桜が咲き誇る春には必ず訪れるんだそう。

「夏になると、天神祭という日本三大祭のひとつがここから見物できます。眼下を流れる大川に屋形船が出たり、盛大な奉納花火も上がったり、とても盛り上がるんですよ」

石垣を下りてしばらく行くと、目の前に高さ41.5mの立派な天守閣が現れました。豊臣秀吉が築城したことで知られる大阪城ですが、地元大阪の人々にとってはどんな存在なのでしょうか。

「遠くからも見える大阪城は、大阪人にとっては当たり前の風景でありながら、常に僕らのことを見守ってくれているシンボルのような存在でもあります。孫ができたら、おじいちゃんが必ずここに連れてきて天守閣を見せる。そんな代々受け継がれる心の拠りどころのような場所だと思います」

現在の天守閣は、周辺を公園として整備することが決まったのを機に、1931年に再建されたもの。そのための資金は市民からの寄付でまかなわれたのだとか。それだけ大阪城は、大阪の人々にとって思い入れの強いランドマークなのです。

城跡からの眺望と天守閣の迫力を満喫したら、次は天神祭を催す大阪天満宮のお膝元で、天神橋筋商店街という日本一長いアーケード商店街が有名な天満を目指します。その道中で話題に上がったのが「エクストリームウォーク」。26時間以内(エキスパート部門にエントリーの場合は24時間以内)に100kmを歩くという、なかなかハードなイベントです。

「散歩好きが高じて、同じ部署のメンバーを誘って昨年の関西エクストリームウォークに参加しました。無事に兵庫県の姫路公園から大阪城公園までの100kmを歩き切りましたよ。翌日は疲労で使い物になりませんでしたが(笑)」

夜通し歩いての100km。肉体的にはつらかったものの、仲間と何気ない会話をしたり、お互いに励まし合いながら歩けたことで、充実感も格別だったのだとか。

「フルマラソンにも参加したことはあるんですが、それとはまた違う達成感がありましたね。ウォーキングなら、マラソンほどハードルが高くないので誰でも参加できますし、仲間とゴールを目指しながらコミュニケーションを図ることができるので、チームビルディングにも最適なイベントだと感じました。100kmと聞くと『え!?』って思うかもしれませんが、かなりオススメですよ」

そんな会話をしながら、大阪城公園を出てさらに歩くこと5分。大川のほとりに次の目的地がありました。

「げんき食堂というカレー屋さんです。対岸の造幣局に、開花時期にあわせて一般開放される『桜の通り抜け』というイベントがあるんですが、そこを訪れたときに見つけたお店です。何年も前から気になる存在だったんですが、ついこの前ようやく訪問できたんです」

げんき食堂の店主は、30年以上もカレー作り一筋。スパイスをたっぷり使いつつも、さっぱりとした毎日食べられるカレーを作ることにこだわっています。

大川を望む窓際のカウンター席に、「げんきカレー」が運ばれてきました。まずはスパイスの芳醇な香りを楽しんでからひと口。

「スパイスがしっかり効いているのに、やさしい味でサラッと食べられる。それが不思議で、何度も食べたくなるんですよ。大きな具がゴロゴロと入っているのもいいですよね」

「また食べに来ます」とげんき食堂を後にして、散歩を再開します。今回の散歩の最終目的地は、上方落語の寄席「天満天神繁昌亭」。冒頭で樋口がどうしても行きたかったという場所です。大川にかかる川崎橋を渡りながら、その理由を聞いてみました。

「落語に興味をもって聞くようになったのはつい最近なんですが、昔の文化や人々の日常が垣間見れて面白いんですよ。あと起承転結があって、最後にしっかり話を落とす。こうした構成の妙にも惹かれますね」

まだ落語を生で聞いたことはないそうで、寄席に行けるだけでもうれしそう。そんな天満天神繁昌亭へと向かう途中で、おしゃれなパン屋さんを発見。お土産に何か買おうと立ち寄ってみることにしました。

ここは注文を受けてから作るサンドイッチや、もちもちのベーグルが人気だという「COBATO836」。目移りしながら樋口が選んだのは「さくらもちベーグル」。桜の葉を生地に練り込んだ、春限定の一品です。

「お店の目の前が南天満公園なんです。ここでパンやベーグルを買って、川沿いの公園でピクニックするのも最高でしょうね」

ベーグルをカバンにしまい、碁盤の目状に道が走る天満の市街地を進んでいきます。すると「もうひとつ、案内したいお店があるんです」と言って、早歩きで天神橋筋商店街へ。

「コロッケが名物の中村屋です。ホクホクのコロッケを目当てに、連日ものすごい行列ができるお店なんですよ」

そう言って早速コロッケを買おうとしますが……早歩きもむなしく、残念ながらこの日は売り切れ。代わりにできたてのミンチカツをゲット。

「ここはミンチカツもジューシーでおいしいんです。サックサクの衣がたまりません。中村屋さんの揚げ物は子どものころから親しんでいて、冷凍のコロッケをたくさん買っては、家で揚げて食べたりもしていましたね」

天満のソウルフードで小腹を満たしたところで、いよいよ、今日の散歩もクライマックス。憧れの天満天神繁昌亭へと足を踏み入れます。昼席と夜席の間のタイミングでしたが、取材ということで特別に客席まで入らせてもらいました。

「うわぁ、これが繁昌亭か……。誰もいないのに、噺家さんの声とお客さんの笑い声が聞こえてきそうですね」

天満天神繁昌亭は、2006年にオープンした上方落語の寄席。意外に新しいと思われるかもしれませんが、戦後から60年以上、上方落語はお寺の境内やホールを借りて演じられており、専用の寄席はありませんでした。そこで立ち上がったのが、当時の上方落語協会会長、6代目 桂 文枝。「若手噺家が落語を演じられる機会を増やし、誰もがいつでも落語を聞ける場所を」という想いでこの繁昌亭が生まれました。

感慨深そうに客席から舞台を眺めながら、落語に興味をもったもうひとつの理由を教えてくれました。

「実は自分の仕事にも落語が活かせるのではないかと思って。担当しているウォーキング事業をさらに発展させるには、社内で進むべき方向を明確にすることや、ウォーキングに興味をもった人をどんどん巻き込んでいくことが大事。そのために『物事を分かりやすく伝える力』を養うヒントが、落語に隠されている気がするんですよね」

「次はちゃんと生の落語を観に来たいです」と言いながら繁昌亭を出ると、もう空は赤くなりはじめていました。ここで今回のSANPO TALKは終了です。

おいしいグルメを挟みながら、大阪城から天満天神繁昌亭へ。道中には他にも気になるお店がたくさんあり、まだまだ散策しがいがありそうなコースでした。

ちなみに最後に訪れた天満天神繁昌亭の建築資金も、大阪城天守閣と同じく、地元の企業や市民からの寄付でまかなわれたそう。今回の散歩では大阪の名所に加え、そんな大阪の人々の歴史や伝統文化に対する愛と人情に触れることができたのでした。

大阪城公園
住所:大阪府大阪市中央区大阪城1-1
電話:06-6755-4146

げんき食堂
住所:大阪府大阪市都島区網島町1-10
電話:06-6351-3395

COBATO836
住所:大阪府大阪市北区天満2-2-7
電話:06-6881-0779

中村屋
住所:大阪府大阪市北区天神橋2-3-21
電話:06-6351-2949

天満天神繁昌亭
住所:大阪府大阪市北区天神橋2-1-34
電話:06-6352-4874

PROFILE

樋口慎也(ひぐちしんや)
2001年、アシックスグループに入社。アシックスファクトリーアウトレット大阪を皮切りにリテールに従事したのち、2009年からはアウトレット商品のマーチャンダイジングに携わる。現在はウォーキング生産チームの一員として、サプライチェーンマネジメント業務を担当している。
Photo : Sogen Takahashi
Edit+Text : Taro Takayama(Harmonics inc.)