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歩く、話す、見つける、
とっておきの街歩き。
SANPO TALK
#16 古き良き街並みに溶け合う「今」。谷根千でアンビバレンスの妙を楽しむ

#WELL-BEING 2024.01.22

歩く、話す、見つける、
とっておきの街歩き。
SANPO TALK -谷根千・堀 学編-

※2023年11月時点の取材内容で構成しています。

その街をよく知るナビゲーターがおすすめの散歩コースを紹介しながら、自身のウォーキングスタイルについて語る連載企画「SANPO TALK」。第16回は、都内の大手広告代理店で営業部門のマネージングディレクターを務めている堀 学さんがナビゲーター。昔ながらの風情ある街並みの中におしゃれなショップやカフェが同居し、散策コースとして世代を問わず人気のエリア、谷中・根津・千駄木からなる通称「谷根千」を巡ります。

今回のSANPO TALKの舞台は「谷根千」。谷根千とは谷中、根津、千駄木という街の頭文字から取られた通称で、神社仏閣が多く、かつては富裕層の別荘地として愛されたという山の手の雰囲気と、ノスタルジックで親しみやすい下町の雰囲気が同居する人気の散策スポットです。今回のSANPO TALKの舞台は「谷根千」。谷根千とは谷中、根津、千駄木という街の頭文字から取られた通称で、神社仏閣が多く、かつては富裕層の別荘地として愛されたという山の手の雰囲気と、ノスタルジックで親しみやすい下町の雰囲気が同居する人気の散策スポットです。

ナビゲーターとして街を歩く堀 学さんにとって谷根千は、以前の職場やご自宅からもほど近いという馴染みのエリアなのだそう。

「休みの日にふらっと訪れたり、仕事終わりにこの辺りを通って自宅に帰ることもあります。お気に入りの飲食店も谷根千の周辺には多いんですよ。まずはこの辺りを散歩するなら外すことのできない谷中銀座に向かいましょう」

集合場所だった日暮里駅から西へ少し歩いていくと、賑わいのある谷中銀座の街並みが見えてきました。すると堀さん、「ここに渋いお店がありますね」と歩を止めて、最初の目的地に着く前に早速寄り道です。

立ち寄ったのは大正2年創業の米菓店「谷中せんべい」。ガラスケースにずらっと並ぶおせんべいは、毎朝お店の奥で昔と変わらぬ製法で焼かれています。

「店主が高齢化して引退されたお店に新しいお店ができるというふうに、最近の谷中銀座周辺はお店の入れ替わりが多くなってきました。昔ながらの雰囲気が残る街ですが、適度な新陳代謝も進んでいるんですよ」

そう語ってくれたのは、谷中せんべいの4代目店主の奥様。100年以上変わらぬお店の風情を堪能しつつ、堀さんもお土産にせんべいをお買い上げ。

「味や食感がいろいろ選べるので悩んでしまいました。個包装されているから1枚買って食べ歩き、なんてこともできますね」

やがて谷中銀座へとアプローチしていく「夕やけだんだん」に到着。西日がきれいに差し込むこの階段は、谷中のシンボルにして人気のフォトスポットでもあります。ちなみにかわいらしい名称は、一般公募によって命名されたものなのだとか。そんな夕やけだんだんを下ると、お肉屋さんやお惣菜屋さんなど昔ながらのお店がところ狭しと並ぶ谷中銀座商店街です。

「まるで立派な観光地のようですね。平日だけどカメラをぶら下げて散策している人や外国からの観光客もたくさん。そこに地元の方々が買い物に来ていてものすごい賑わい。この雑多な雰囲気も谷中銀座の魅力なんですよ」

全長170mほどの商店街ですが、人混みをかき分けながら歩くともっと長く感じてしまいます。そんな谷中銀座を抜けて、次は堀さんが気になっているアイテムがあるというショップへ。すると不思議な道に迷い込みました。

「ここは『へび道』といって、文字どおり左右に蛇行しているんです。かつてここに川が流れていたことの名残でしょう」

へび道はもともと藍染川という小川でしたが、のちに暗渠(あんきょ)にされ、今では両側に住宅が立ち並ぶ路地となっています。ちなみに藍染川は、この地域で生まれ育った夏目漱石の著書にも登場しているのだとか。

「ウネウネした狭い道を歩いていると、何となく川が流れていた頃の情景が目に浮かんできますね。通りの入口に渋い銭湯があったり、途中にこぢんまりとした雑貨屋さんがあったり、狭い路地ですけど歩いていてワクワクしますよね」

へび道を抜けてしばらく行くと、お目当てのショップが見えてきました。「tokyobike 谷中 Soil(トーキョーバイク谷中ソイル)」です。ここは東京の街を楽しむことをコンセプトに生まれた「トーキョーバイク」という自転車ブランドの直営店。

「僕のまわりでトーキョーバイクに乗っている人が多いんですよ。中には自分なりにカスタムしている人もいて、ずっとかっこいいなと思ってたんです」

店頭にはおしゃれなデザインの自転車がズラリ。こちらのお店では新車の販売や修理だけでなく、「ひとつのものを長く使ってもらいたい」という想いから、ユーザーから引き取った中古のトーキョーバイク車体を整備・カスタムした自転車「re tokyobike」も販売しています。

お店のスタッフさんからも教えを乞いながら、「このハンドルかっこいいな~」「こっちの自転車は色がいい」と店内を散策する堀さん。

「カラーバリエーションが豊富にあってどれもおしゃれだし、中古車をレストアした一台も独特の味わいがあっていいですね。普段はラクなので電動アシスト付きの自転車に乗ってるんですが、こういうスポーティーな自転車にも憧れがあって。子どもからも『カッコイイから買いなよ』と言われているので、近々真剣に検討してみます」

次は谷根千散歩のブレイクにぴったりのお店を目指して、根津駅方面へと歩き出します。その合間に堀さんお気に入りの散歩スタイルを聞いてみました。

「こう見えて意外と歩くんですよ(笑)。歩くのはたいてい天気が良い日の仕事帰り。公園で休憩を挟んだりしながらのんびり歩いてます。クルマや電車で移動していたら見過ごしてしまうような景色に出会えるのが楽しいんです」

一回の散歩で1時間以上は歩くという堀さん。歩きながら仕事について考えごとをすることもあるようです。

「散歩中に仕事のことを考えるのは嫌じゃないかって? むしろ歩いているときの方が良いアイディアや気づきを得られることが多い気がします。外の空気を吸いながら体を動かしていると、頭の中がすっきりするのかもしれません。僕にとって散歩は、じっくり物事を考えるのにちょうどいいひとときでもあるんです」

やがて根津の路地から大きな煙突が立っているのが見えました。銭湯だと思って近づいてみるとそこはカフェ。「MATCHA&ESPRESSO MIYANO-YU(マッチャ&エスプレッソ宮の湯)」という、築70年以上の銭湯をリノベーションした複合施設の一画にあるお店です。

煙突を見上げながら店内に入ると、銭湯時代の下駄箱をアレンジしたカウンターがお出迎え。さらに奥へと進んでいくと、天井の高いかつての浴室にテーブルと椅子が。ここもカフェスペースとして使用しているのだそう。

「昔の建物をそのまま生かしているのが谷根千らしいですね。当時のままのタイルの風合いがノスタルジックだし、おしゃべりしている声が反響するのも銭湯ならでは。こんな独特な空間でまったりできるのはいいなぁ」

そう言って、堀さんは温かい抹茶ラテをオーダー。静岡県産の高級抹茶「おくみどり」を丁寧にたてて作られた一杯です。

「色がきれいだし、香りもすごくいいですね」

銭湯の名残のある空間で抹茶ラテを味わう。まさにここでしかできない貴重な体験です。

ひと息入れたところで、「最後に僕の大好きな場所に行きましょう」と散歩を再開。不忍通りを南へ15分ほど歩くと、左手に見えてきたのは不忍池です。

上野恩賜公園の南端に位置する周囲2kmほどの池は、夏にはハスの葉で一面が緑色になることでも有名。かつては先述した藍染川もここに注ぎこんでいたんだとか。

「不忍池の中央にある並木道が大好きなんです。道の両側には桜が植えられていて、満開の時期は最高の散歩コースになります。気分がいいときには、そのまま上野恩賜公園内を縦断して鶯谷駅の方まで歩くこともありますよ」

桜が咲くのはもう少し先ですが、不忍池の夕景を満喫した堀さん。「せっかくだからスワンボートに乗って帰ろうかな(笑)」とおどけながら、今回のSANPO TALKはこれにて終了です。

谷根千をじっくり歩いてみると、そこには山の手らしさと下町らしさ、古いものと新しいものといった相反する価値が上手に溶け合っていることがわかります。その中には、100年以上愛されるおせんべい屋さんもあれば、使い込まれた一台を生まれ変わらせる自転車屋さん、かつての銭湯を現代の憩いの場にしたカフェもある。谷根千が多くの人を魅了するのは、そんな変わらないものと移りゆくもののダイナミズムを、歩くたびに感じられるからかもしれません。

谷中せんべい
住所:東京都台東区谷中7-18-18
電話:03-3821-6421

夕やけだんだん/谷中銀座商店街
住所:荒川区西日暮里3-13

tokyobike 谷中 Soil
住所:東京都台東区谷中2-6-12
電話:03-5809-0980

MATCHA&ESPRESSO MIYANO-YU
住所:東京都文京区根津2-19-8 SENTOビル 1C
電話:03-6882-9205

不忍池
住所:東京都台東区上野公園5-20

PROFILE

堀 学(ほりまなぶ)
東京都出身。事務機器メーカー、医療系コンサルタント会社、通信系外資企業などを営業マンとして渡り歩いたのち、2008年に都内の大手広告代理店に入社。同社の法人営業部立ち上げを主導し、現在はセールス部門のマネージングディレクターを務めている。
Photo : Sogen Takahashi
Edit+Text : Taro Takayama(Harmonics inc.)