大切なのは2つの“ぴったり”
日本靴医学会理事・早稲田明生先生に聞いた足と靴の関係性
大切なのは2つの“ぴったり”

#WELL-BEING 2022.07.27

大切なのは2つの“ぴったり”

普段はカラーやデザインを重視して靴を選んでいる人も多いはず。でも自分の足にしっかりフィットした形やサイズの靴を履かないと、思わぬ足のトラブルにつながることも。そこで正しい靴選びについてや、足のトラブルを未然に防ぐためのヒント、そして靴がもつ可能性を、日本靴医学会理事であり、わせだ整形外科の院長を務める早稲田明生先生に教えてもらいました。

専門医に聞いた「本当にぴったりな靴」とは?

「今は性能の良い靴がたくさんあります。でもランニングシューズの場合、マラソンのトップランナーが使っているのと全く同じ靴を履いたからといって、それがその人にとってベストの靴とは限りません。靴に求める性能や実際に履くシチュエーションは人それぞれ。まずは自分の目的にあった靴を選ぶという意識が大切です」

より速く走るための靴なのか、通勤を快適にするための靴なのか、ファッション性を高めるための靴なのか。まずは自分の用途をはっきりさせ、それに“ぴったり”な靴を選ぶ。そうすることで、靴本来の機能や性能を引き出すことにもつながると早稲田先生は言います。

「フィット感という意味での“ぴったり”で言えば、『履いているのを忘れるくらい気持ちがいい靴』が究極ですよね。そしてそんな靴を足に馴染ませるために重要なのは靴ヒモです。正しいフィット感というのはヒモをしっかり結んだ状態で得られるもの。しかし靴を脱ぐときにわざわざ靴ヒモを緩めている人は少ないですし、履くときもヒモが結ばれた状態の靴にスポンと足を入れてしまう。足にフィットしているという意味での『履きやすい靴』と、『脱ぎ履きしやすい靴』は別物だということを念頭に置いて、あくまで靴ヒモは履くたびにしっかり絞める。どんな靴を選ぶかよりも正しい履き方を実践することが、『本当にぴったりな靴』に出会える近道だと思います」

靴選びの意外な盲点

「足にフィットしていない靴を履き続けて、足のトラブルを抱えてしまうことがあります。外反母趾などが有名ですが、足のゆびとゆびの間の神経が圧迫されて痛みが起こるモートン病も、比較的多い症例のひとつです。圧迫が起こってしまう原因のひとつとして、自分が知らないうちに足の形やサイズが変化していることが挙げられます」

実は足というのは年齢とともに偏平化していく傾向にあるのだそう。偏平化した分、それまで履いていたサイズの靴では窮屈になり、痛みや違和感につながるのです。身体の変化に比べて、足の変化というのは自分の目では気づきづらいもの。

「アシックスさんが蓄積した足形計測データによると、50歳を境に足の形が変わる人が多いんです。靴を購入する際には、あらためて足形計測をしてみたり、計測機のないお店であれば念のためワンサイズ上の靴を試してみる、といったことをしてみるといいかもしれません」,

自分にフィットした靴で歩くメリット

「正しく選んだ靴を履くと、歩くのが快適で楽しくなりますよね。歩くことのメリットはたくさんあって、たとえばお年寄りですと、足を地面に着地させるたびにそれが骨に対するほどよい刺激となり、骨粗しょう症の予防につながります。また歩くことで筋力が維持され、転倒もしにくくなります。こうしたメリットは当然、若いうちから歩いていることでも享受できます」

歩くことのメリットは、身体の健康維持だけに止まりません。コロナ禍以降、リモートワークとなり出歩く機会が減った人も多いはず。しかし家に閉じこもりがちな生活になると、気分的にも塞ぎ込んでしまうと早稲田先生。

「私自身も毎日徒歩通勤ですし、散歩も大好きなんですが、歩くことは心の健康にも寄与してくれます。歩きながら出会える新しい発見や気づきが、頭にも心にもいい刺激を与えてくれて、気分が前向きになれるんです。近所の空や花を見に行こうといったちょっとしたきっかけでいいので、少しでも多くの人に外を歩くという習慣が根付いてほしいですね」

早稲田先生が考える「靴のこれから」

「足というのは本来、人間の体が地球と物理的に接する唯一の部分。それを媒介するという意味で、靴はとても重要な存在なんです」

早稲田先生のクリニックには、日頃から足の痛みに悩む方が多く来院されます。しかし治療以前に、正しい靴の履き方を教えたり、中敷を変えてあげるだけで痛みが緩和する例も多いのだとか。また早稲田先生は医師として靴に期待する部分は大きいと続けます。

「長年、足のトラブルを抱えた患者様を診ていますが、中敷と靴のコンビネーションの重要性はどんどん高まっていると感じます。市販される靴もこれまでのようにサイズだけでなく、組み合わせる中敷が数パターンから選べるようになると、足のトラブルが減らせるかもしれません。また今後は、AIなどの新しいテクノロジーによって、センサーで歩行データを収集しながら、歩き方の改善点や転倒の危険を知らせる『スマートシューズ』のさらなる進歩も期待されます。靴を通じて人々の健康の維持や向上が叶えられるよう、メーカーさんだけでなく、義肢装具士や理学療法士、そして我々医師など、靴に関わるあらゆる人々の知恵を結集させていけるといいですね」

年に一回、足と靴にまつわるさまざまな医学的成果が発表される「日本靴医学会学術集会」。36回目となる今回は、早稲田明生先生がホストを務めます。これまで医師のみが参加・登壇できる集会でしたが、今回から早稲田先生の発案で、9月3日(土)午後に行われる座談会を参加費無料で一般公開するほか、アシックスをはじめ靴関連企業のブース出展も。足と靴に興味のある方は、ぜひふるってご参加ください。

■学会名:第36回 日本靴医学会学術集会
■テーマ:人と靴との調和への挑戦
■会期:2022年9月2日(金)・3日(土)
■会場:鎌倉芸術館(神奈川県鎌倉市大船6-1-2)
■お問い合わせ:運営事務局 株式会社ドゥ・コンベンション 03-5289-7717 
■公式HPはこちら

PROFILE

早稲田明生(わせだ あけお)
1989年に産業医科大学医学部を卒業後、慶應義塾大学病院整形外科などに勤務。2006年からはフランス、オランダの病院でも整形外科医を務めたのち2007年に帰国。2021年6月にわせだ整形外科を開院し、主に足を専門としながら、外傷を中心とする整形外科領域全般の診療を行う。また日本靴医学会理事、日本足の外科学会教育委員長も務めている。