#Technology 2022.09.21
廣瀬俊朗さんと菊川裕也さんが語る 「RUNWALK ORPHE」
「歩く」を可視化するスマートシューズで ビジネスマンのココロとカラダはどう変わる?
機能と美しさを両立させたビジネスシューズ「RUNWALK」から、新たなシューズが登場。アシックスとORPHEが共同開発したスマートシューズ「RUNWALK ORPHE(ランウォーク オルフェ)」です。
歩容(歩き方の特徴)を検知・分析できる付属の小型センサー「ORPHE CORE 3.0」をシューズに取り付けることにより、アプリを通してココロとカラダの状態を見える化することができます。
本企画ではそんなアシックススポーツ工学研究所が長年培ってきた知見と先進的なセンシング技術を掛け合わせたプロダクト「RUNWALK ORPHE」の可能性を探るべく、元ラグビー日本代表で株式会社HiRAKUの代表取締役を務める廣瀬俊朗さんと、小型センサー「ORPHE CORE 3.0」を開発した株式会社ORPHEの菊川裕也さんによる対談を実施。
「RUNWALK ORPHE」の特徴はもちろん、“歩く”を見える化することの意味と価値、“歩く”を通じてココロとカラダを整えることの大切さについて、お二人に語っていただきました。
歩き方と感情の間には相関あり
菊川:廣瀬さん、こんにちは! ご無沙汰してます。
廣瀬:ご無沙汰してます。菊川さんの会社におじゃまするのは初めてですね。
菊川:早速ですが、まずは廣瀬さんにこの「RUNWALK ORPHE」を履いていただきたくて。……いかがですか?
廣瀬:普段から「RUNWALK」を履いているのもあって、違和感がないですね。相変わらず履きやすいなって(笑)。センサーが取り付けられていることも気になりません。元々「RUNWALK」が一般的な革靴より軽いというのもあるとは思いますが、これも思っていた以上に軽く感じます。
菊川:実際に歩いていただくと、すぐに歩容の計測ができます。ただ普通に歩くだけで歩行速度や歩幅の変化などさまざまなデータを取れるのが「RUNWALK ORPHE」の特徴ですね。
廣瀬:あぁ、なるほど。自分の歩き方が見える化されて、すごく面白いですね。
菊川:歩幅や速度、着地のときの衝撃、足が振り上げられた高さといったデータをひとつひとつ数値化することを「歩容解析」と言うんです。ちなみに歩容解析は、理学療法や医療の現場から発達して、スポーツ分野にも応用されていった歴史があります。スポーツでは、選手の動きや心拍数などのデータを収集・分析するのが当たり前になってますよね。
廣瀬:近年ではウェアラブルのGPSデバイスやハートレートモニターによって、自分の状態をリアルタイムでデータ化して見ることができます。これによって自分を客観視でき、選手自身も冷静に練習や試合を振り返られるようになりました。次にどうすればいいかという行動目標もイメージしやすくなります。「RUNWALK ORPHE」だと、歩くというシンプルな動作から、誰でも手軽に自分の状態を把握できるのがいいですね。
菊川:そうなんです。今回はビジネスマンをターゲットに、歩くことを通じて「心と身体(からだ)を整える」というコンセプトで、センサーとアプリの開発を進めました。
廣瀬:ハイパフォーマンスで仕事をしようと思ったら、身体だけでなく心も大事だということですね。今このシューズを履いて歩いていたら、あらためて「歩く」というのは、心身の状態を映す鏡みたいだなって。
菊川:おっしゃるとおりで、たとえば「考えごとをしているとき」と「集中して歩いているとき」で歩幅のバラつきの度合いが微妙に違うし、怒っていたり焦っていたりすれば、歩行スピードが速くなる傾向があると言われています。つまり、感情の状態と歩行には相関があるということ。逆に言えば、歩き方を可視化することで、メンタルも可視化できるというわけです。
廣瀬:じゃあ、歩くスピードを変えることで気分も前向きになるとか……?
菊川:それもある程度は言えると思いますよ。快活な歩き方をしていれば、気持ちも快活になる、ということが理論的には言えます。そうした相関が見られるのが歩行の面白いところです。たとえば血圧でその人の体調は分かりますが、だからといってすぐに自ら血圧を変えることはできません。でも歩き方なら意識次第で変えられる。歩くことを通じて自分の状態がわかったら、また歩くことを通じて能動的に自分を変えられる可能性があるんです。
廣瀬:面白いですね。歩き方を変えれば気分もノってくるというのは、僕自身も経験上、大いにあり得ると思っています。気分を良くしたいなら、いろんなことを無理やり試すのではなく、単純に普段の歩き方をちょっと意識するだけでいい。だとしたら手軽でいいですよね。
ウォーキング=手軽なサウナ!?
菊川:「RUNWALK ORPHE」で歩いて収集されたデータは、「ASICS ORPHE WALK」という専用アプリで可視化できるんです。(菊川さんが試作段階のアプリ画面を廣瀬さんに見せる)
廣瀬:へぇ、なるほど。アプリのデザインモチーフは“水”なんですね。
菊川:そうです。歩容解析から「もう少し足を上げて」とか「もっとテンポを上げて」といった簡単なアドバイスも表示され、それに合わせて歩き方を変えると、画面内に水が満ちていく。水がたっぷり満ちていればそれだけ充実した一日だったよ、というのが分かるというイメージです。
廣瀬:ユーザーに対する「伝え方」として、とても良いビジュアルだと思います。現役時代にキャプテンを務めていたとき、他の選手にアドバイスをする機会が多かったんです。でもヒトがヒトにアドバイスするときって、「こうしたい」「こうなってほしい」といったエゴが含まれてしまうことがあります。でもあくまで客観的に状況を認知させる意味では、こうしたアプリによるアドバイスはとても有効なんじゃないかなと。その一方で、水というモチーフを使うことで、機械的で無機質なアドバイスには見えないように工夫されているのもいいですね。ところで、「RUNWALK ORPHE」を使ってみようと思う人は、やっぱり運動やアクティビティに興味がある人なんですかね?
菊川:最近ビジネスマンの間でもサウナが流行ってますよね。汗もかくし、リラックスできるし、すごく良いアクティビティだと思います。でも僕はウォーキングもサウナとほぼ同じ作用があるんじゃないかと思っていて。運動をしているときは交感神経が優位になって、リラックスしたら副交感神経が優位になる。そのアップダウンをしたあとに仕事をスタートさせるとスッと集中できる、みたいな。サウナは服を脱いで入らないといけないですし、ある程度時間もかかります。でもウォーキングだったら通勤中に“ながら”でできますから。
廣瀬:歩くことのメリットを「手軽なサウナ」という感じで打ち出していくのは面白いかもしれないですね。たぶん似た効果に気付いているビジネスマンは、一駅分歩いて帰ろうとか、一日のどこかで時間を決めて歩こうといった行動をすでにしている気がします。最近、朝散歩をしている人もよく見かけるようになりましたし。
菊川:そんなウォーキングを通勤や仕事での移動に取り入れるとしたら、ビジネスシューズタイプの「RUNWALK ORPHE」はおすすめです。わざわざウォーキングシューズに履き替える必要もないですしね。
廣瀬:となると、普段アクティブに運動しない人にもおすすめできますね。「何か運動しないと」と思っていても、できていない人はけっこういます。
菊川:アプリのビジュアルも、「誰かと競う」とか「自分を追い込む」といったイメージからはあえて離して、癒しや潤いを前面に出しているんです。ただセンシングをしても人は変わるわけではない。どう表現して打ち返してあげれば、ユーザーが前向きに変われるか。アプリ開発ではそこも意識しました。
引退して分かった「歩く速度って、ちょうどいい」
菊川:ところで廣瀬さんは、普段はよく歩いてますか?
廣瀬:意識して歩くようにしてますね。駅まで20分ほどの距離なら全然歩きますし、移動中もエスカレーターやエレベーターより、階段を使う方が好きです。
菊川:現役時代もよく歩いていたんですか?
廣瀬:いや、現役の頃は疲労度との兼ね合いもあって、あまり歩いていませんでした。やはり練習や試合でパフォーマンスを発揮することが何より大事ですから。
菊川:それだけハードな競技ということですよね、ラグビーは。
廣瀬:でもさっきの話ではありませんが、センシングデバイスで自分の運動データを客観的に把握できるようになったおかげで、練習の量や質を適切にコントロールできるようになり、怪我もしにくくなって、選手寿命も延びたと思います。これも2012年に日本代表のヘッドコーチになったエディー・ジョーンズの功績ですね。
菊川:ラグビーはそうした技術を取り入れるのが早かったですよね。ちなみにエディーさんって「ハードワーク」を重んじてたじゃないですか。だから各選手の運動データを収集して、「お前、もっと頑張れるだろう」と発破をかけるためのソースにしていたような気もするんですが(笑)。
廣瀬:それはありますね(笑)。選手たちの動きを計測するためのドローンがあったんですが、本当にキツいときは、あのドローンを壊したいと思ったことも(笑)。でもそうしたデータ収集と見える化が、2015年のワールドカップをはじめ、良い結果に結びついたと確実に言えますね。
菊川:なるほど。ウォーキングが習慣化したのは引退されてからということですが、廣瀬さんは、歩くことはビジネスにも有益だと思います?
廣瀬:もちろん。歩いてるときって、余計なことを考えないからいいんですよ。たとえば、新しい企画やアイデアを練るときも、デスクやPCに向かいっぱなしだと頭でっかちになって、ロジカルなことばかり考えてしまう。でも歩いていると、もっとナチュラルに物事をとらえられて、自由な発想が生まれるような気がします。
菊川:一種の気分転換じゃないですけど、歩くことで生産性が上がるのは間違いないと僕も思いますね。
廣瀬:あと純粋に、歩く速度ってちょうどいいんですよ。クルマや電車に乗ってしまうと見られない景色がたくさんある。歩いていると、まわりの風景に対して視野が広がって、新しい発見もたくさんある。気になるものがあったら、すぐ立ち止まって見ることもできますからね。なので、仕事で知らない街に行ったときは、特によく歩くようにしています。その場所の雰囲気や地元の人々の様子が分かるので、それがビジネスに良い影響を与えてくれることもあるんですよ。
身体を動かせば、心も自然と整っていく
菊川:この機会に廣瀬さんに聞きたいことがあって。「RUNWALK ORPHE」のコンセプトに直結する話なんですが、心を整えることの意味や重要性について、元アスリートとしてはどう考えていますか?
廣瀬:スポーツだったら、メンタルが良い状態にないと怪我をする可能性が高まりますし、パフォーマンスも落ちます。おそらくそれは、ビジネスをはじめ、他の分野でも同じなんじゃないですかね。いっぽうで、心を整えるには、先に身体を動かしちゃった方がいいんじゃないかと思うこともあるんですよ。
菊川:あぁ、そうかもしれないですね。
廣瀬:たとえば日課のランニングがしんどくてイヤだな、と思う日があったとします。でも何も考えずにとりあえず走りはじめたら、だんだんと楽しくなるということは往々にしてあります。モチベーションを上げてから行動するのではなく、行動することでモチベーションを上げる。僕はそんな心と身体の相関があるような気がするんですよね。
菊川:まさに最初に話した「歩容と感情の相関」の話につながってきますね。
廣瀬:正しく歩くことで、自然に心が整っていく。その経過や結果をちゃんと可視化してくれて、また次のモチベーションや、心身の良い状態の維持につなげられるのが、この「RUNWALK ORPHE」の価値なんじゃないですかね。
菊川:おっしゃるとおりだと思います。体調に気を遣うビジネスマンは多いと思いますが、パフォーマンスを発揮するにはメンタルも大切。そんなことを「RUNWALK ORPHE」を通じてアピールできれば。ぜひ、通勤や仕事の合間でも心身を整えられる“時短サウナ”のつもりで、たくさんの人に履いてみてほしいです。
※取材時のシューズは開発中のものです。
PROFILE
1981年、大阪府生まれ。5歳からラグビーをはじめ、大阪府立北野高校、慶應義塾大学でプレーしたのち、東芝ブレイブルーパスではキャプテンとして日本一を達成。日本代表でもキャプテンを経験し、日本ラグビーフットボール選手会の初代会長に就任するなど、ピッチ内外でリーダーシップを発揮。現在は、株式会社HiRAKUの代表取締役としてスポーツ普及、教育、食などの可能性を「ひらく」ことに取り組む。
PROFILE
1985年、鳥取県生まれ。一橋大学経営学部を卒業後、首都大学東京大学院芸術工学研究科に進学。電子楽器のインターフェース研究を続けたのち、LEDスマートシューズシステム「Orphe」を製品化し株式会社no new folk studioを設立。2019年にはランナー向けのORPHE TRACKを発表し、アシックスとのコラボレーションプロジェクトも展開。昨年、社名を株式会社ORPHEに変更。