ON MY WALK
#05

写真家が見つけた、世界の美しさ

ON MY WALK

#STYLE 2023.06.23

歩き慣れた道、いつもと同じ町も、フォトグラファーたちが切り取ると違った世界が見えてくる。 まるで新しい場所を旅するように、世界を拡げてくれる写真の数々。

広光 Hiromitsu
1989年富山県生まれ。2019年にNONIO ART WAVE AWARDにて石井孝之賞を受賞しデビューした。 遊び心ある多層的な画面構成と写真表現の幅の広さに高い評価を得ている。 ファッション、アート、コマーシャルの垣根なくさまざまな撮影を手掛け、時代が変わっても古くならない写真を追い求めている。 主な受賞歴は、APAアワード2022審査委員賞、N.Y.ADC 2020 Bronze cubeなどがある。
https://www.instagram.com/hiromitsu_un/

みつけたね、

 2022年9月15日に第一子が産まれて、生活が一変した。妻も私も地方から上京したため、頼る人が近くにいなく、慌ただしく、寝てるのか起きてるのかわからない状況が続いている。夫婦ともフリーランスのような働き方なので柔軟に対応できるかと思っていたが、スケジュールはあってないようなもので、1、2週間後の仕事の動き方が読めず、急なことで公共の一時保育施設に預けたくても、1ヵ月前に予約が終了していたり、そもそも母数が少なかったり、制約があったりと難しく、ようやく見つけた施設やベビーシッターは1日数万円を超え、なんのために仕事をしているのか、と呆然とする。東京で生きるとはこういうことなのか。あまりにも神経が張り詰めるため、私たちは働き方を変えることにした。妻は企業勤めに切り替え、4月から子どもを保育園に預けることにした。保育園にまつわる目を覆うような全国的なニュースがあって身構えていたし、0歳から保育園に入れることに、逡巡したが、結果とてもよかった。とても行き届いた保育で私たちも息子も保育園が大好きになった。

 毎朝、6時から支度を始めて、7時半過ぎに家を出て登園する。出る時間が10分遅れるだけで、すれ違う人や流れていく景色がまるで違う。自由気ままに働きたい時に働いてきた私には見えなかった景色があった。習慣をもつことが人と人を結び、社会との接点になることを体感している。同じ時間に同じ道を歩くから、日々の細やかな変化と新しい発見に気づくことができる。タイミングが合えば、家族3人で同じ道を歩く。その時の風はとても気持ちが良い。子供は自分の手足を動かして、ひとつひとつの動作を発見し、連携させ、ゆっくりと、だが着実に成長していく。慣れない感覚や感情に戸惑いながらも成長していく様子を間近で目撃できることがとても尊く幸せに感じる。時間は不可逆的で有限だ。限りある時間が水のようなものであるならば、両手で大事にすくって、雫ひとつもこぼさないような慎重さで生きている(気概だけ)。

 送り迎えの道のりで、子どもと一歩一歩あるきながら、いろんなことを発見する。歩く速度は、ひとりで歩く時よりもとてもゆっくりだ。「水面は朝はキラキラ、夜はお空が映るね。飛行機雲だ。まつぼっくりの赤ちゃんがいるよ。昨日のビワは誰かが食べちゃったのかな。鳩が会議中だね。松と電信柱が喧嘩してるよ。昨日はあんなにチビだったのにもう雑草が伸びてるね。ここらで一番でっかい木だ。蝶々、はじめて見たね。お母さんの髪の毛キレイだね。」
子どものニコニコしている顔をみて、彼の視線の先をみて、ゆっくりと息を吸って、ゆっくりと歩く。なにか心に引っかかることがあれば立ち止まる。歩いている間、ずっと話しかけている。撮ってやるというより、撮らせてもらっているという受け身の感覚にとても近いかもしれない。家族ができて、人間関係も変わった。知人、友人から、おまえは変わった、つまらないやつになった、若々しさがなくなった、写真家としてのキャリアを捨てた、と散々言いたい放題言われたが、まったく意に介さなかった。なぜなら、そう言ってきた彼らの言葉と態度が理解できるからだ。良い写真を撮りたいという切実さ、キャリアを積み重ねていくことの切迫感、眉間に刃物を突き立てられているかのような真剣さで、顔にシワを刻んで彼らも私も生きてきた。だから、彼らが悪気があって言ってるわけではないことがわかる。仕事がすべてで、それに純粋に向き合っているだけだ。でも、写真は人生の一部でしかない。家族と過ごす今が何よりも豊かで一番大事だ。写真は人生を濾過してできた水滴のような気がする。その雫を今日飲み、明日も飲む。