#WELL-BEING 2024.11.29
歩く、話す、見つける、
とっておきの街歩き。
SANPO TALK -浦安・若林光進編-
※2024年11月時点の取材内容で構成しています。
その街をよく知るナビゲーターがおすすめの散歩コースを紹介しながら、自身のウォーキングスタイルについて語る連載企画「SANPO TALK」。第24回は、スリッパなどの日用品を製造・販売する企業に勤める若林光進さんが、千葉県の浦安をナビゲートします。聞けば、1ヵ月50万歩を目標に毎日ウォーキングに精を出しているという若林さん。生まれ育った馴染みの街を巡りながら、大きく変貌した浦安の今と昔に出会いに行きます。
千葉県の浦安といえば、都心からのアクセスが良好なベッドタウンとして、また、年間2,500万人以上が訪れる巨大テーマパークのお膝元として知られている街。一方で、1960年代初頭までは良質なあさりや海苔が採れる漁師町として栄えていたり、市の面積の大半が戦後に造成された埋立地であったりと、意外な歴史や文化をもつ街でもあります。
今回のSANPO TALKは、そんな浦安で生まれ育った若林光進(こうしん)さんがナビゲーター。2年連続でオンラインイベント「さつきラン&ウォーク 企業対抗戦」のウォーキング部門にエントリーし、今年は大会期間中の1ヵ月で100万歩を歩き切ったという健脚の持ち主です。
「学生時代は剣道部で、歩いたり走ったりは苦手だったんです。でもイベントをきっかけに歩くようになってからはウォーキングの面白さにどんどんはまっていきました。今日は散歩中に見つけたスポットを中心に、浦安の魅力を発見できるルートをご案内します」
まず訪れたのは、2017年にオープンした雑貨店「URAYASU markets(ウラヤスマーケッツ)」。その名のとおり、浦安をモチーフにした小物やアパレル、千葉県内で作られている食料品などが店内にところ狭しと並んでいます。
オーナーの市川 桂さんはデザイナーとしても活動しており、お店のロゴや看板、包装紙などのデザインを手がけるほか、浦安の隠れた魅力を紹介するフリーペーパーも制作。そんなオーナーこだわりのコーヒーやソフトクリームも楽しめるこのお店は、単なる雑貨店にとどまらず、地元の人たちが気軽に集えるハブのような存在にもなっています。
「お店の前を通りがかった時に、一緒にいた私の娘が、入口から見えるかわいらしいアイテムたちに興味をもったんです。実際にお店に入ってみると、面白い雑貨がいっぱいで私もつい引き込まれてしまいした。ここで購入した『URAYASU CITY』のロゴ入りTシャツは、家族みんなのお気に入りの一着になっています」
浦安愛が詰まったお店をあとにして、市役所通りに向かって歩きはじめます。その道すがら、若林さんが生まれたころの浦安についてレクチャーしてくれました。
「今から四十数年前、浦安はまだ『市』ではなく『村』だったんです。実家は第一期埋立事業でできた宅地にあったんですが、住宅の数はまだ少なく、家のまわりでウシガエルが鳴いているような場所でした。浦安の市制がスタートしたのが1981年、テーマパークのオープンが1983年、JR京葉線が延伸され東京駅と繋がったのが1990年。近代的なベッドタウンとして街が整備されたのはここ30〜40年のことなんです」
浦安の変貌ぶりを間近で見てきた若林さんにとって、次のスポットは特におすすめとのこと。到着したのは「浦安市郷土博物館」です。
「この博物館は、ただ写真や資料が展示されているだけではないんです」と若林さん。館内から屋外展示に入ると木造家屋が並ぶ中庭が。
「漁師町として最も活気があった昭和27年ごろの浦安を再現した屋外展示です。木造の民家が立ち並び、かつての街並みを追体験できるんです」
建物は展示のために精巧につくられたものかと思いきや、移築された本物の古い家屋もあるのだそう。それらは内部に入ることもでき、漁師町のころの浦安にタイムスリップしたかのような感覚が味わえます。さらに当時の水辺を再現したエリアには、木造の小さな舟の姿も。
「これは『べか舟』といって、海苔の収穫に用いられていた舟です。私の子どもは博物館の『ジュニア学芸員』として活動していて、べか舟の操船資格ももっているんですよ」
舞浜のテーマパークがかつてのアメリカを再現した夢の国なら、ここはノスタルジックな浦安の雰囲気をリアルに体感できる場所。貝殻の混じる砂利道を踏みしめながら歩いたり、縁側に腰掛けてひと息ついたり……つい時間を忘れて長居してしまいました。
「大人にとっては昔を懐かしむことができますし、子どもにとってはこの風景がむしろ新鮮みたいです。昔遊びや舟作りなどを伝承する場にもなっているので、浦安市民にとって大切な施設のひとつだと思います」
さて気分を2024年にリセットして散歩を再開。しかしすぐに漁師町時代を偲ばせる風景が見えてきました。
「かつてたくさんの漁船がひしめく係留場所だった境川です。漁師たちが東京湾に出るための重要な航路でもあった川なんですよ」
さらに歩を進めていき、市役所通りを南へと歩いていきます。片側2車線の何の変哲もない通りのようですが、少し高くなっている中央分離帯もかつての堤防の名残なんだとか。
「古くからの浦安の土地は中央分離帯まで。それより東側のエリアは戦後の埋立事業で造成され、現在は浦安市民の多くがそこに住んでいるんです」
昔は“海岸通り”だったであろう道を歩きながら、若林さんのウォーキングスタイルの話題に。毎日1万歩以上のウォーキングを継続できている理由は、自身の健康面と関係があるようです。
「以前は血圧が高く、医者から薬の服用を勧められるほどでした。ところが『さつきラン&ウォーク』に参加したあとに血圧を測ってもらったら、数値がぐんと下がっていたんです。もちろんウォーキング自体の効果・効能は人それぞれでしょうか、私の場合は『これは続けたほうがいいかも』となりました」
若林さんにとって、ウォーキングの魅力はもうひとつあるといいます。
「歩いていると心と頭をフラットにできるのがいいんです。一度禅を体験したときは無心になれなかったのですが、ウォーキング中はその境地に達することができた。そんなふうに言うと大げさかもしれませんが(笑)、余計なストレスから解放されて心地いい時間が過ごせるのは間違いないですね」
気がつけば郷土博物館を出てから30分ほど。ほどよく疲れたところで次のスポット「ウエダクレープ」が見えてきました。
「クレープというとしっとりと焼かれた生地を思い浮かべますが、ここはパリッとしていてとてもおいしいんです。せっかくなのでひとつ食べていきましょう」
地元でお店を出したかったというオーナーの上田紗矢香さんが、ご家族と同級生で切り盛りする「ウエダクレープ」。生地にはオーガニックの小麦を使用し、さらに自家製の“ギー”というインド発祥のバターオイルを練り込んでいるのがこだわりです。デザート系からサラダ系までたくさんのメニューに目移りしつつ、若林さんは「スモークチキン」をオーダーしました。
「私はサラダ系のクレープを頼むことが多いんですが、子どもはここのデザート系クレープに目がなくて。通りかかるたびに『食べたい!』とせがまれるので、家族でこの辺りに来るときは少しルートを考えないと(笑)」
腹ごしらえのあとは、大勢の人でごった返す舞浜駅前を抜け、園内のBGMやゲストたちの歓声を遠くに聞きながらウォーキング。そして、テーマパークをぐるっと囲むように整備された「舞浜海岸遊歩道」が今回の終着点です。
都心のビル群に工業地帯、海上をゆく大型コンテナ船に屋形船、羽田発着の飛行機に悠々と飛びまわるカモメたち。開放感たっぷりの景色を眺めながら、最後に浦安散歩の魅力を振り返ってもらいました。
「浦安には閑静な街並み、開放感のある海の眺め、テーマパーク周辺の非日常的な景色などいろいろな表情があります。また、漁師町時代の風情が残っていたり、今も新たに開発が進むエリアがあったりと時間的な奥行きも感じさせる街。だから歩いていて飽きることがありません。あえて足りないものを挙げるとすれば、山がないことくらいかもしれませんね(笑)」
ウラヤスマーケッツ
住所:千葉県浦安市北栄3-3-16
電話:047-329-2430
浦安市郷土博物館
住所:千葉県浦安市猫実1-2-7
電話:047-305-4300
ウエダクレープ
住所:千葉県浦安市富士見5-24-1
舞浜海岸遊歩道
住所:千葉県浦安市舞浜
PROFILE
1979年、千葉県生まれ。大学を卒業後、施設管理会社に3年間勤務。その後、アシックスの連結子会社であるニッポンスリッパ株式会社に転職し、現在まで経理を担当。大学在学中の一時期を除いて浦安に住み続けている生粋の浦安っ子。
Edit+Text : Taro Takayama(Harmonics inc.)