#WELL-BEING 2024.09.24
歩く、話す、見つける、
とっておきの街歩き。
SANPO TALK -仙台・大久 司編(アシックス商事 事業戦略チーム)-
※2024年6月時点の取材内容で構成しています。
その街をよく知るナビゲーターがおすすめの散歩コースを紹介しながら、自身のウォーキングスタイルについて語る連載企画「SANPO TALK」。第22回はアシックス商事で事業戦略チームのマネジャーを務める大久 司をナビゲート役に、東北最大の都市、仙台の街を巡ります。大久にとって仙台は20歳まで過ごした生まれ故郷。家族との思い出の地や、現在の仕事につながる出会いがあったお店などを再訪し、散歩を通じて自身の原点を見つめ直します。
東京から新幹線でおよそ2時間。宮城県の中部に位置する仙台は、伊達政宗ゆかりの歴史と「杜の都」と称される豊かな自然が魅力の街。仙台駅周辺は碁盤の目のように大通りや商店街が交差し、昼夜を問わず常ににぎわいを見せる東北地方最大の都市でもあります。
そんな仙台の街をナビゲートするのは、アシックス商事の事業戦略本部、事業戦略チームマネジャーの大久 司(つとむ)。仙台は彼の生まれ故郷ですが、20歳で県外に出たこともあって、これまでじっくり散歩をする機会はなかったそう。
「若い頃は市内のファッションビルに通い詰めたり、古着屋さんや靴屋さんをハシゴしてばかりで、街をのんびり散策するという考えはありませんでした(笑)。今日は思い出の地も巡りながら、未だ見ぬ仙台の魅力に出会えたらと思います」
最初のスポットとして案内してくれたのは、仙台駅のほど近くにある「仙台朝市」。朝市といっても、朝から夕方まで営業する常設の商店街となっており、“仙台の台所”として地元の方々や観光客に親しまれています。
朝市の起源は戦後の闇市で、山形や福島の女性たちが一番列車で農産物や魚介類を売りに来ていたのがはじまりだそう。現在のように建物の中に商店が並ぶ常設の市場となったのは昭和40年頃のこと。
「ここは僕が幼少期によく連れて来てもらった場所です。近くの病院で看護師として働いていた母を夜勤明けに迎えに行くと、決まって朝市に寄って、お刺身などの夕飯のおかずを買っていたのを思い出します」
当時贔屓にしていた魚屋さんはもうないそうですが、朝市の活気は今もそのまま。しばし採れたての野菜や魚介類を眺めながら、幼き日の思い出に浸るのでした。
「久しぶりに来ましたが、お店の人たちは相変わらず気さくですし、ここでしかお目にかかれないものもたくさんあるのでつい見入ってしまいました」
人をかき分けながら仙台朝市を抜け、次に目指すのは大久の人生を決定づけることになる思い出の場所です。
「ここがタマヤ・フットウェア。僕が靴の開発や販売を仕事にするきっかけになった革靴専門店です」
2001年にオープンしたタマヤ・フットウェアは、アメリカやイギリスの老舗革靴ブランドの定番品をはじめ、1950年代の貴重なデッドストックなどがところ狭しと並ぶ、東北中の革靴愛好者に支持されている名店です。
「店主の小野和彦さんとは、僕が高校生の頃からのお付き合い。当時は仙台の『141ビル』というファッションビルの中の靴店で働かれていて、僕はよくそこに通っていたんです」
大久と小野さんは、本場の革靴や靴にまつわる服飾品を見に、なんと一緒にイギリスに行ったこともあるそう。
「小野さんは僕にとって革靴の師匠のような存在。革靴の開発に従事するようになって、ここで得た知見やイギリスでの経験が大いに役立ちました。革靴に対する思い入れは人一倍でしたし、『革靴はこうあるべき』というこだわりも強かったので、当時の僕はかなり面倒な開発者だったと思います(笑)」
二人の革靴話は尽きることがありませんでしたが、そろそろ次のスポットへ。仙台名物の味を求めて、仙台市街を南北に貫くサンモール一番町というアーケードを進みます。
ここまで思い出深い地を巡ってきましたが、大久は故郷の仙台に対して少し屈折した想いがあるのだとか。
「仙台出身の若者は20歳前後になると、この街にとどまる人と、東京などに憧れて出て行く人に二分されます。僕自身は後者。故郷という意味で大切な場所ではありますが、当時はこの街に少し物足りなさも感じていましたから」
仙台の風物詩である七夕まつりを控え、豪華な笹飾りで彩られた商店街を歩くこと15分。見えてきた立派な暖簾の奥から炭火の香りが漂ってきます。
「仙台といえば牛たんですよね。今日はここでお昼にしましょう」
「旨味 太助」は昭和23年創業の牛たん焼き専門店。厚切りの牛たんを炭火で焼く仙台牛たん発祥のお店です。
大久は定番の牛たん定食をオーダーし、懐かしい味に舌鼓を打ちます。炭火で丁寧に焼かれた牛たんは香ばしくてやわらかく、毎日6時間も火にかけて作るテールスープも絶品です。
「祖父が精肉屋さんと知り合いだったので、我が家では生の牛たんが普通に手に入り、よく食卓に上っていたんです。でも初めて太助の牛たんを食べた時は驚きました。当然ですが、切り方も焼き方も家庭のレベルとは全然違う。やっぱりお店で食べる牛たんは断然美味しいですね」
お腹を満たしたところで散歩を再開。ケヤキ並木が美しい定禅寺通(じょうぜんじどおり)で存在感を放つガラス張りの建物が次のスポットです。
「これは2001年にできた建物です。当時の仙台において、ここまで構造的に面白い建築は珍しかったですね。その頃の僕は県外の大学に通っていたので、帰省するたびに足を運んでいました」
建物の名は「せんだいメディアテーク」。図書館、ギャラリー、イベントスペースなどからなる仙台市の公共施設で、日本を代表する建築家、伊東豊雄氏の代表作としても知られています。
中に足を踏み入れると、建物の柱として機能する白いチューブ状の構造体の束が、まるでオブジェのように各階を貫いているのが目を引きます。
大久は2〜4階にある図書館がお気に入りで、訪れるたびにデザインやものづくりに関する本を読み耽っていたそう。この日も気になる本を手に取り、食後の休憩がてらしばし読書を楽しみます。
「せんだいメディアテークは建築界のさまざまな賞を受賞し、日本だけでなく海外からも高く評価されているんです。誰でも自由に利用することができるので、仙台を訪れたらぜひ立ち寄ってほしいですね」
今回の散歩も残すスポットはあとひとつ。市内を流れる広瀬川を横目に20分ほど歩くと、立派な橋が見えてきました。
仙台城と城下を結ぶ橋として1601年に架けられた「大橋」です。1938年に現在の鉄筋コンクリート造となった橋の上からは、切り立った崖と市街地のビル群が一望できます。
「向こうに、広瀬川へと流れ込む沢があるんです」と下流の方を指さす大久。
「そこに大昔からの地層が露出している場所があって、子どもの頃はそこで化石の採取をしていました。実は小学生の頃は、古生物を研究する考古学者になりたくて。この橋からの景色はそんな幼い頃の純粋な夢を思い出させてくれますね」
故郷を出ておよそ25年。仙台という街に対して複雑な感情はありつつも、久しぶりに歩いてみて気づいたことがあると言います。
「これまでは意識していませんでしたが、幼少期の体験や若い頃に行った場所が、今の僕を形成する重要なピースになっていると実感しました。今回の散歩を通じて、仙台に対する愛着が増したような気がします。思いがけない発見ができたり、大切なものを思い出させてくれるという意味で、自分の故郷を散歩してみるのは、きっと誰にとっても貴重な経験になると思います」
仙台朝市
住所:宮城県仙台市青葉区中央3-8-5
電話:022-262-7173
タマヤ・フットウェア
住所:宮城県仙台市青葉区一番町1-12-3
電話:022-715-4192
旨味 太助
住所:宮城県仙台市青葉区国分町2-11-11
電話:022-262-2539
せんだいメディアテーク
住所:宮城県仙台市青葉区春日町2-1
電話:022-713-3171
大橋
住所:宮城県仙台市青葉区川内中ノ瀬町
PROFILE
造形系の大学を卒業し、日本の老舗革靴メーカーで企画開発を担当。その後、イタリアのシューズブランドの日本法人を経て、2008年にアシックス入社。RUNWALKをはじめとするシューズの開発やマーケティングに従事し、現在はアシックス商事の事業戦略チームでマネジャーを務める。幼い頃からものづくりに興味があり、学生時代の夢は「エルメスの職人になること」だったとか。
Edit+Text : Taro Takayama(Harmonics inc.)