川の流れが、やがて海へとつながるように。あるがまま、軽やかに歩き続ける 川の流れが、やがて海へとつながるように。あるがまま、軽やかに歩き続ける

SPECIAL INTERVIEW with PEDALA SPORTS  #02 MOMOKO ANDO SPECIAL INTERVIEW with PEDALA SPORTS  #02 MOMOKO ANDO

Story 2024.09.13

川の流れが、やがて海へとつながるように。
あるがまま、軽やかに歩き続ける
– 安藤桃子 –

PROFILE

1982年、東京都生まれ。高校時代よりイギリスに留学し、ロンドン大学芸術学部を卒業。その後、ニューヨークで映画作りを学び、助監督を経て2010年『カケラ』で監督・脚本デビュー。14年に、自ら書き下ろした長編小説『0.5ミリ』を映画化。同作で報知映画賞作品賞、毎日映画コンクール脚本賞、上海国際映画祭最優秀監督賞などを受賞し、国内外で高い評価を得る。
『0.5ミリ』の撮影を機に高知県に移住。ミニシアター「キネマミュージアム」代表や、ラジオ番組「ひらけチャクラ!」 (FM高知)のパーソナリティーも務めるほか、21年には、初のエッセイ集『ぜんぶ愛。』を上梓。
現在、NPO地球のこどものメンバーとして、すべてのイノチに優しいをモットーに、子ども達との映画作りやアートなど、食育、自然、農を通じ、優しい地域の地場づくりを行なっている。

気持ちの赴くままに足を踏み出し、そこから始まる物語を紡ぎ続けている人がいる。映画『0.5ミリ』の撮影をきっかけに高知県に移住した安藤桃子さんだ。安藤さんが高知へ移住してから行ったことは、わずか10年とは思えないほど多い。農業プロジェクト、映画館の立ち上げ、映画祭開催…。
アグレッシブに動き続ける安藤さんを刺激する、自然、街、人とは何なのか。安藤さんの案内で歩きながら探ってみよう。

自然に抗わず、自然に抱かれる
仁淀ブルーを歩く

「すっごく、いいお天気ですね!」
そう言いながら待ち合わせ場所に現れた安藤桃子さんは、お日様のような笑顔で迎えてくれた。今日は「日本一の清流」「仁淀ブルー」と称えられる仁淀川沿いから高知市内まで、安藤さんのお気に入りのロケーションを案内してもらう予定だ。

最初に案内してくれたのは仁淀川にかかる〈名越屋沈下橋〉。山に向かってまっすぐ伸びる橋の下には、青く透き通る水が流れ、何匹もの川魚が泳いでいるのが目に入る。ここが高知市内からわずか1時間の距離だとは思えないほどの大自然だ。

「この橋は、その名のとおり増水したら川に沈んでしまうように設計された欄干のない橋なんです。水が増えたら沈ませて、水が引いたらまた渡れるようになる。自然に抗わず、寄り添っていく姿勢が、日本人の感性の象徴のように感じられるんですね。自然に入り込むように作られているから、この橋の上に立つと自然に抱かれる感覚になるんです」

だから、ここから案内をスタートしたかったと言う安藤さんとともにしばし深呼吸。心がほぐれたところで、次は安藤さんがよく訪れるという〈土佐和紙工芸村くらうど〉の前にある河原へ案内してもらった。

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母のお腹に帰ってきたような安心感
高知だから感じられる“懐かしさ”

「早速行ってみましょう」そう言いながら川に向かう道を進むと、通りがかりの犬の散歩をしている女性から「あら! 安藤さんじゃない」と声が掛かる。天気のことや犬のことなど、しばらく話しをしてから安藤さんが「お身体に気をつけてねー」と別れを告げる。
「お知り合いですか?」と聞くと「全然(笑)。高知の人って、あんな感じでみなさん話しかけてくれるんです。あれ?知り合いだったかな、なんて思っちゃう(笑)! そのままその人のお宅で麦茶をいただいたり、野菜をいただいたり。こんなところが高知!って感じがしてたまらないんですよ」と笑う。

広い河原につくと、遠くに水遊びする人たちの姿が見える。人工的なものはほとんどなく、眼の前にはゆったりと青く流れる水と濃い緑の山がこんもりと茂っている。

「ここいいでしょう? ここは、事務所で根を詰めて仕事して疲れたーってときに、来るんです。子どもや友達と一緒にコンビニでコーヒーや飲み物買って、車のトランクを川に向けて停めて。そのままトランクに腰掛けてこの雄大な景色を見てね。それだけで、もう最高に幸せです」

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安藤さんが高知へ移住したのは2014年。安藤さんが書き下ろした小説『0.5ミリ』を映画化するにあたり高知に訪れ移住を決心したという。

「仕事柄、日本中に行ったことがありましたが、47都道府県のなかで唯一来たことがなかったのが高知でした。映画の撮影地を探していたときに、原作を読んでいた父(俳優・映画監督・画家の奥田瑛二さん)が『この主人公がいるのは高知しかない』と勧めてくれたんです」

「それを聞いてすぐに予定を調整して、高知に行くことにしました。午前中に飛行機を降りるとすぐにここだ!と思いました。自然がパワフル、人があったかい。そして、海外に行ったときのような開放感を感じられて、でもなぜか懐かしさもあって…。特別な空気感が大好きになり、一瞬で移住を決意しました。最近は、高知から離れて戻ってくるとお母さんのお腹に帰ってきたような安心感があって、おかえりって出迎えてくれるような気がするんですよ」

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善悪ではなく、自然か不自然かで
判断するという生き方

仁淀川に沿って進んで行くと、川幅はどんどんと広くなり、街と海が少しずつ近くなってきたのを感じられる。川から離れ、海のそばの山を上って行くとこんもりと緑が茂るなか近代的な建物が見えてきた。「日本の植物分類学」の父といわれる牧野富太郎博士の業績を称えて開園した〈高知県立牧野植物園〉だ。

「牧野富太郎さんは、生涯をかけて日本中を歩いて雑草といわれるような植物にも名前を付けていかれました。 “名付ける”という行為は、存在を認めて愛のまなざしを向けているように感じられます」

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石垣沿いの蒸せるような緑の小道に入ると、安藤さんがスマートフォンでシャッターを切っている。

「この道はお遍路さんが歩く遍路道ですね。四国では遍路道がいたるところにあって、この植物園にも残されています。こういう道が残されているのも素晴らしいですよね。植物園を建てた建築家の方が『建てた時点ではまだ未完成。植えられた植物が成長して、建物と一体化することで建築も完成する』とおっしゃっていたのを聞いたことがあります。だから山とのボーダーがなく、歩いているとキツネやサルに会えたり、ネコがのんびり歩いていたりする。その環境がとっても平和で、ここに身を置くだけで心地よくなります」

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植物園を出ると「仁淀川もそうですが、もう一つ、あの『竜とそばかすの姫』の舞台になった場所があるからちょっと行ってみましょうか」と安藤さんが誘ってくれた。鏡川にかかる〈天神大橋〉は、朱色の欄干が風情ある趣で、その下をまたゆったりと川が流れている。

「今日、このルートを選んだのは山と川、海、街や人が全部つながっているのを感じて欲しかったからなんです。自然とつながり自然のままにあることは、生きやすさにも通じると感じています。社会で生きて仕事をしていたら、どうしても“いい””悪い“で判断しがちですが、そうしていると苦しくて生きにくくなる。だから自分にとって自然か、不自然かという判断基準を持っていて、自然と不自然の間がグラデーションになっている感覚があるといいなと思って。そういうイメージでこのロケーション、道のりを選びました」

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歩くことは夢に近づくこと
いつも一歩一歩“かなえている”ことを子どもたちに伝えたい

ラストのロケーションは、高知市の繁華街おびさんロードにある映画館〈キネマミュージアム(キネマM)〉。安藤さんが「映画で高知を盛り上げたい」という思いで作った場所だ。到着すると「ひと息つきましょう」と言って、併設のカフェで出しているクラフトコーラをご馳走になった。これまで飲んだどのコーラとも違うハーブのような味わいは、一日歩いた身体にはひどく美味しく感じられる。

「わたしが友人たちと共に土佐の山や自然に入って採ってきた30種類の野草が入っているんです。映画館のオープンに向けて動いているときはコロナ禍で、命の尊さを改めて感じていた時期でもありました。この場所に来たら、癒やされて欲しい。そんな思いで、ドリンクから音響や床材などの映画を見る環境まで、いのちに優しいをコンセプトにこだわり抜いて作り上げました」

「ミュージアム」と名付けたように、単なるミニシアターではなく、映画を通じた文化を発信する活動も行われている。

「昨年は映画祭を開催しました。映画祭っていうと、みんな身構えちゃうので『坂本龍馬祈願国際映画祭り』という名前にして、高知の人たちが大好きなお祭りにしたんです。映画関連でいうと、いま力を入れているのはNPOに参加して開催している、子どもたちに映画作りをしてもらうワークショップです。1回でも参加すると全員が、見違えるように自分が持っているものを開花させていくんです」

「子どもたちと接しているときに一番伝えたいのは“夢をかなえよう!”ということ。実はみんな日々たくさんの願いをかなえて生きている。例えば、歩くことだって、学校へ行こう、会社へ行こうと思って、自分の足を踏み出して、目的に一歩一歩近づいている。自分が自分にかなえてあげられているんだ!という実感を持って欲しいと思います」

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軽やかさの先にある
クリエイティビティを求めて

河原で、牧野植物園で、街中でと長い時間を共に歩いていただいた安藤さんへ、最後に一日履いていただいたPEDALA SPORTSの感想を聞いてみた。

「履いた途端、びっくりしました! なんて軽いんだろうって。今まで履いていたどの靴よりも軽い! フィット感も歩きやすさも初体験で、やはり日本人には日本の靴だなって(笑)。今日は河原も土の上もアスファルトも歩きましたが、楽で履き心地がいい。しかも、ワンピースにも合わせられるくらいスマートでおしゃれ。とっても心地いいので、家族や大切な人たちにプレゼントしたいです。
“軽さ”ってわたしが映画のワークショップで、子どもたちから学んでいることにもリンクしているんです。子どもたちは問題や課題が生じても物事を重く捉えず『じゃあこうしよう』『おー!』とワクワクしながら喜びいっぱいに表現していく。虹の上をパパパパっと駆け上がるような軽やかなクリエイティビティが生まれてくるんです。今は新しい長編映画の制作に向けて動いているので、子どもたちを見習って軽やかに歩んでいけたらと思っています」

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